卑怯な呪文

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 その言葉は甘い誘い文句のようで、氷月は思わずごくっと喉を鳴らす。しかし、余裕のないそれを知られたくはないのでなんてことないフリをして微笑んだ。 「大胆だね玲。そんなにも僕を求めているのかい?」 「は?ちがうだろ。求めてるのはおまえの方だろ?」 「え……」  玲の言葉に氷月は驚く。そんな氷月に玲はなおも続ける。 「おまえはペラペラと言葉を並べて取り繕うけど、結局はビビってるんだろ?自分の願いを拒否られるのが怖いんだ」 「……あー……いや、そんなことは……」 「嘘つくな。気づいてないとでも思ってるのか?」  玲はそう言うと、氷月を真っ直ぐに見つめる。その瞳に射抜かれたように氷月は何も言えなくなる。  そんな彼に玲はさらに続けた。 「私は別におまえの欲を否定しないし、なんならできる限り叶えてやりたいとは……思ってる」 「玲……」 「それで?ここまで言ってやったぞ?ほら」  氷月は玲をジッと見つめる。その目を綺麗だと思ったのはいつからだったか。出会ってすぐのことなのは覚えているが、時の流れと共に綺麗になったその瞳に吸い寄せられるのは必然で。だから氷月はこう口にした。 「あと一回……そばにいて欲しい」  やはり“あと一回”という予防線の言葉は抜けなかった。そうお願いを口にした氷月に玲は少し呆れた顔をする。そんな表情も美しいなと見惚れる氷月だったが、次に見た光景に思わず目を見開いた。  玲が自ら顔を近づけてきたからだ。 「え……」  トンと肩に玲の頭がのる。氷月は言葉に詰まった。触れるところが熱い。抱きしめたい衝動にかられながらも、頭を下げ氷月はぐっと堪えて静止した。数秒時が止まったかのように静寂が流れて、氷月は満足したように顔を上げる。 「ありがとう、玲」
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