卑怯な呪文

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 玲はフッと笑った。そして氷月の背中に腕を回す。与えられる温もりに氷月は胸がいっぱいになった。そのまま離れる度に「もう一回」とねだれば、玲は「仕方ないな」と言いながらも、その願いを叶えてくれる。 「……さすがに、多すぎ」  しかしやりすぎたようで、玲はとうとう離れるように促した。氷月はしまったと思ったが咄嗟にあの言葉を口にする。 「あと、一回……いい?」 「ったく……おまえなぁ」  呆れながらも笑う玲に、氷月はまた願いを口にする。 「あと一回だけ、抱きしめさせて」  その顔は微笑みを浮かべていた。そこにあるのは拒絶される不安の表情ではなく、絶対的な自信のある顔。“あと一回”と、そうお願いをすれば玲は断らない。氷月はそれがわかっているから、玲の返事も待たずにその体をもう一度腕の中に収める。  その温もりを感じながら、愛しいと溢れる想いを伝えるように、優しくも少しだけ強く抱きしめた。  ーーあと一回。  それは氷月にとっては最終手段の言葉。  その言葉を永遠のループに繋げてくれた玲の笑う顔を眺めて、氷月はまた口にするのだろう。  ーー“あと一回”と。 Fin
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