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それは違う。階段から落ちたのは、明らかに俺のせいだ。そして間が悪いことに、ちょうどすれ違った彼を巻きこんでしまった。どう考えても百パー俺が悪い。
ただ下敷きになったのは俺だったため、彼にケガがなかったのが不幸中の幸いだった。自分自身、足をひねった程度ですんだのはラッキーだったとすら思う……酷い頭痛で意識が朦朧とする中、そんなふうに思った。
「寝るのは構わないけど、先に住所を教えて」
「あ、はい……」
俺は何とか住所を告げると、お言葉に甘えて?そのまま意識を手放した。
軽く肩を揺すられて、意識が浮上する。
「着いたよ。この建物で間違いない?」
目を開けると、彼の顔が間近にあってハッとした。眠ったというよりも、痛みで気を失っていたと言ったほうが正しい。
お礼を言って車を出ようとしたら、ちょっと待ってと呼び止められた。彼は上着から名刺を一枚取り出すと、裏に何やら書きこんでから俺に差しだす。
「念のため、そっちの連絡先も教えて。そこに書いた番号にワン切りしてくれればいい」
「あ、はい」
つい従順にスマホを取り出して、言われたとおりに、名刺の裏に書かれたプライベートらしき番号を呼び出す。するとそっけない電子音が車内に鳴り響いた。
津和は手の中の画面に目を走らせ、小さくうなずくとエンジンを止めた。
「部屋まで送るよ」
「いえ、すぐそこなんで一人で大丈夫です。ありがとうございました」
今度こそ荷物を抱えて助手席を下りると、窓越しにハンドルにもたれている津和に向かって、頭痛をこらえながら頭を下げた。それから車に背を向け、極力頭を揺らさないよう、慎重な足取りでアパートへ向かって歩き出す。
(後もう少しで、部屋に着く……そうすれば薬が飲めるし、ベッドで休める……)
必死に自分を励ましながら、階段の手すりをつかんだそのときだった。
「……まったく、見てられないな。ほら、肩につかまって」
いつの間にか、隣に来ていた彼に腕を取られた。
「あの、大丈夫ですから……」
「また階段から落ちたらどうする? 両足とも捻挫するつもりか?」
冷ややかな口調でそう言われると、なにも反論できなかった。俺は観念して彼の手を取ると、外階段を上って部屋の前まで付きそってもらった。
「鍵、出して」
俺は言われたとおり、従順にジーンズのポケットから鍵を取り出すと、彼に渡して開けてもらった。
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