【第二部】1.仕事の付き合い

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 津和はこうやって、俺が出社する日は必ず、処方薬と市販薬の両方を持ったか確認してくる。 (どっちが効くか、そのときの頭痛によって違うっていうのも、不思議だよな)  頭痛には種類があって、処方薬が効くタイプと効かないタイプがある。そして効かない場合は、市販薬が効く。たまに両方飲まなくては治らない場合もあれば、両方飲んでもあまり効かない場合もある。頭痛の対処は非常に難しくて、痛みの感覚であたりをつけて飲むしかない。 (今日は少し、痛くなりそうだな)  頭痛の予兆は感じるから、そういうときは無理しないように、気をつけて一日過ごす。ラッキーなら、痛みが出ないまま過ごせるときもあった。今日の体調では、本当は早く帰宅したほうがいいのだけど。 「じゃあ行ってくるよ」  車通勤の津和は、フレックスで十時出社の俺よりも、先に家を出なくてはならない。玄関まで見送りにいくと、靴を履き終えた津和が、心配そうな表情でこちらを見た。 「なんかあったら、すぐ連絡して」 「わかったって。大丈夫だよ、薬もあるんだから。ほら、遅れるから早く行けよ」  一緒に暮らす恋人に対して、つい素っ気ない態度を取ってしまうのは、照れ隠しもあるが、心配かけたくないのもある。 「キスしてくれないの」 「しねーよ。早く行けよ……」 「わかった、俺からする」  手首をつかまれ、簡単に引きよせられると、朝にしては濃厚なキスをされた。 「……早く行ってこい」 「うん。帰り迎えにいくからね」  今夜の飲み会参加は、反対されなかった。そもそも今回の仕事を引き受けるときも協力的だった。でも津和は心配する……そして世話を焼きたがるのだ。  俺はこのまま、彼の優しさに甘んじていていいのだろうか。 「千野さん、ちょっといいですか」  社内で声をかけてきたのは、同じプロジェクトのプログラマーである太田さんだった。俺が雇われているITベンチャーの社員で、新卒入社でまだ一年も経ってないのに、今回のプロジェクトの進行役をまかされているすごい人だ。 「この機能なんですけど、今担当いただいてる部分と似てるので、おまかせしてもいいでしょうか」 「あ、はい。もちろんです」
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