2.既視感

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2.既視感

 太田さんは一瞬、不自然に言葉を切ったが、すぐに素知らぬ顔で俺に説明をはじめた。ちょうど質問しようとした部分で助かったが、隣で俺たちをながめる相川さんから妙な圧を感じる。  するとちょうどそこに、昼飯から戻ってきた同じチームのプログラマー数名が、太田さんと俺に向かって声をかけてきた。 「あ、そうだ。二人とも、今夜忘れないでくださいよ」  太田さんは、カレンダーどおり毎日出社してるそうだが、俺同様フレックスなので、いつも四時にはあがる。退社後に鉢合わせたことは何度かあったが、お互い方向がまるっきり違うので、帰り道はバラバラだ。 (ホントこういう会社、うらやましいよな)  そろそろ金森さんと打ち合わせする時間なので、奥の空いているブース席へと移動しながらしみじみ思う……前の会社が、この会社の半分でも柔軟だったら、辞めることにならなかったんじゃないか、と。 (いや、その考えかたは不毛だろ)  うっかりすると後ろ向きになりそうな思考を、頭の隅に無理やり追いやったとき、ちょうど金森さんが、ノートパソコンの画面をこちらへ向けた。 「ここ、さっき太田も指摘してましたけど……」  しばらく一部の機能改善について話し合っていると、金森さんははたとして苦笑いを浮かべた。 「そういや、無理してません?」 「えっ、何がですか?」 「今夜の飲み会ですよ。うちの会社、あまりこういうことやらないんですけど、たまにはいいかって意見が出まして……でも千野さんフレックスですし、強引だったかなあと」 「いえ、そんなことないですよ」 「それに太田も嫌そうだったから……特に相川さんも来るって聞いたときの顔、見ました?」  金森さんは笑いをこらえるような顔で、あっけらかんと続ける。 「すっげー片想いですからね」 「えっ」 「相川さんの、太田好きは有名ですから。でもご覧のとおり、相川さんの一方通行なんですよ」 「そうなんですか……」 「なんども大学時代の先輩後輩らしくて。まあ太田は個人主義というか、一人でいるのが好きみたいだし、相川さんみたいにスッと距離を縮めてくるようなタイプは苦手なんでしょうねー」
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