2.既視感

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 そして藤沢さんと人気を二分するのは、営業課長の相川さんだ。しかも爽やか系のイケメンとあって、特に女性メンバーに人気らしく、ひっきりなしに声がかかっている。  豪快で楽しい藤沢さんと、気配りができて華のあるイケメン相川さんのよって、飲みの席ははじめから大盛り上がりだ。 (なのに、なんで俺は頭が痛くなるんだよ……)  夕方から痛みだしたので、医者の処方薬を飲んだ。しかし頭痛はおさまりそうになく、どんどん悪化の一途をたどっている。  皆が楽しそうに盛り上がってる中、俺は痛みをこらえて愛想笑いを浮かべた。こんなとき、自分がどうしようもなく嫌になる。だからこれまで、できる限り飲みの席は避けてきたのだ。 (しかたない、市販薬を飲もう)  医者の処方薬が効かないなら、市販薬が効くかもしれない。しかし、個人差もあるが、痛み出したときに飲んだほうが効果がある。かなり痛みが激しくなってる今の時点で飲んで、どのくらい効くのだろう。でも飲まないよりマシだと信じたい。 (この市販薬は、少し食べ物を胃に入れてから飲まないと)  ありがたいことに、料理はどれもおいしそうで、口当たりも悪くない。俺は急いで二、三品の料理をかきこむと、トイレにいく振りをして鞄を手に席を立った。 (うう、早く薬を飲みたい……)  歩くたびに頭に響く痛みをこらえながら、店の奥にある扉を開けると、洗面台の前には先客がいた。 「あ……」  思わず、といった感じで声を出したのは、俺ではなく太田さんだった。鏡越しに合った視線に、互いにとまどいの表情で無言になる。それというのも、太田さんの手にも錠剤らしきものがあったからだ。この光景に、どこか既視感を覚える。  俺は隣の洗面台に立つと、無言でポケットから薬を取り出した。視線を感じたが、かまわず錠剤を口に放りこみ、水道水を手ですくって飲み干す。 「あの、太田さん」 「あっ、ああはい?」  太田さんは、気まずそうに視線を泳がせた。この態度も、なんだか既視感を覚える……そう、まるでいつかの俺みたいだ。
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