神にとって命はみな同じもの、ただそれだけ。

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 長い眠りから覚めたような気怠さからか、身体の感覚が覚束なかった。むしろ全然思うように動かない。赤ん坊の身体とはこんなに不便なものだったのかと、少しばかり不満を募らせながら、俺は閉じていた視界を開いていく。 (ぎゃああああぁぁぁぁーーっ!!)  喉奥から声が迸りそうになる。  俺は必死に手足をばたつかせながら、その場で不様に藻掻いた。 (何だ、これは!? どうなってるんだ、一体!?)  慌てふためくも身体が微動だにしない。くわえてやけに重かった。 (まさか、これは────っ!!??)  目の前の悍ましい光景に俺は慄き恐怖し、そして、驚愕の真実に思い当たる。  俺の視界、いや辺り一面が、虫の集団に覆われていた。同じ種類の虫ばかりが俺の周囲を囲んで、ワサワサと忙しなく動き回っている。  しかもその虫がとてつもなくデカい。  俺の知る虫のサイズとは桁違いに大きく、それは自分とさほど変わらないくらいの大きさのような気がして────。 (まさか……。まさか、まさか、まさか、俺は──っ!!)  俺は虫に生まれ変わっていた。  しかも巣穴に集団で生活する種類の虫たちにとって、群れの頂点に当たる虫たちの女王に。 (嫌だっ!! 嫌だ、嫌だ、嫌だ、こんなの、嫌だああぁぁぁぁっ!!)  俺は気が狂いかけて叫びまくる。あいにく不協和音のような歪な音が、周りに撒き散らされるだけだった。 (殺してくれ、誰か──! 誰でもいいから俺を──っ!!)  首を回して辺りを見渡したくも、自由に稼働する関節も、逃亡するための動力も、今の俺には備わっていない。  今の俺は虫たちにとっては大切にしなければならない、巣の女王。俺は巣の一番奥に鎮座して、虫たちに世話をされる立場となっていた。他の虫たちに比べたら、人間や天敵に見つかって、殺される確率が極めて低い存在だ。  また俺は女王という役割上、生きている限りひたすら卵を産みだし続けなければならない。産卵マシーンのように来る日も来る日も、この巣を守る虫たちのために。  それ以外の行動は、身体の構造的にあまりできないようになっている。だから動くための機能というものが、途轍もなく鈍化しているようだった。  “天寿を全うできるように”  何時ぞやの自分の声が蘇る。  天寿とはいつだ。この虫の寿命は、いったい、いつになったら尽きるというのだ。  俺は狂いに狂った。今となっては前世からの記憶があること自体が地獄だった。 (神様はどうしてこんな酷たらしいことを)  そう何度も問うてみるも、返ってくる答えなど、どこにもなかった。
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