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「登山の人が捨てたのかな? 迷惑だよね」
立ち上がる結衣。
なんと応えて良いかわからず、そっぽを向く尊。そして、さっきのように奥へ向かって歩き出した。
「ねえ、待ってよ。私も行く」
「なんで?」
「ヒマなんだもん」
「俺は恐くないけど、勝手に山に入ると悪い子だと思われて、やまあらしが出るぞ」
「それ、迷信でしょ? 出るならもっと奥の方だし。この先までお父さんと散歩に来たことあるから、全然平気だよ」
ふふん、と笑う結衣。その横顔を見て、尊の胸はなぜか高鳴る。
「かってにしろ」
ぶっきらぼうに言って進む。だが、前に大人達がいるのが見えて速度を落とす。
「あれ、筧のお爺ちゃんだね。もう1人は誰だろう?」
結衣が同じ方を見て言った。筧源三郎、近所に住む頑固爺だ。猟銃が入るケースを肩からかけていた。猟師だという話だが、こういう姿を見るのは初めてだ。
若い女性と一緒に歩いている。ラジオの声が聞こえるのは、熊よけだろう。
たぶん筧は、子供達だけでこんな所を歩いていたら、すぐに帰れと怒鳴る。なので尊は離れて歩くことにした。
結衣が横に並ぶ。また、胸がドキリとした。
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