ライバル

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 見てわかるほどに、由紀子さんの頬から強張りが抜けていく。形のいいくちびるからは、温度の階段を高くのぼった声が、勢いよく放たれた。 「ありがとう。私、麻美さんのことが好きよ。今すぐにでも、いっしょにチェスを打ちたい」  由紀子さんの顔が赤い。  わたしも、あまりにもまっすぐな言葉と自分の取った行動が恥ずかしくなってしまった。重ねた手を、てれかくしの笑みとともに離し終えても、肩から上は熱いままだ。  由紀子さんは自由になった手で、自分の頬をつつんでいる。 「でも今やると、きっと麻美さんに軽くひねられておしまいね。私、のぼせちゃって……。引き締まった勝負をするには、時間をあけなくちゃ」  言うなり、小銭入れを手にした。 「ひとまず、退散するわ」 「次のクイーン杯で」  思わず放ったわたしのひと言に、黒い髪がしっかりと縦にゆれた。  私も頷きを返す。  冠を懸けて彼女と対戦する機会はあと一回。最後の戦いも、全力を尽くすと今、二人で誓い合った。  テーブルの隅に四百五十円を積んでいるあいだ、由紀子さんはくちびるすぼめたり伸ばしたり。目を三回、強くつぶった。  もしかすると、相当な無理をしたのかもしれない。でも、不自然さをかけらも感じさせない素敵な笑みを見せて、由紀子さんは出ていった。
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