ライバル

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「ずいぶん堅実なのね。うわついたところがまったくない。まるで、あなたのチェスみたい」  内気で自分の殻に閉じこもるわたしには、守りのチェスが心地いい。  いっぽうで由紀子さんは、攻めのチェスだ。内に秘めたものを爆発させるような、熱いチェス。 「ところで、麻美さんは彼氏がいるの?」  話の向きが急に変わった。  わたしのお金の使い方が、わたしのチェスに似ているのなら、由紀子さんの質問は由紀子さんのチェスにそっくりだ。わたしの思いもしない角度から切り込んでくる。  わたしに恋人がいるかどうか。興味本位で尋ねているとは思えない。なにかきっとわけがある。一見、意図の不明な由紀子さんの駒の動きには、必ず理由があったのだから。  これがチェスならば、由紀子さんの目的を明らかにするために、時間を費やしてあれこれと思案するが、今は戦っているのではない。由紀子さんに助けを求めているのだ。  素早く「いる」と答えたわたしに、こまごまとどんな人なのかを由紀子さんは質問した。わたしは、正直に伝えた。 「私立の医学部に入るのね。裕福なご家庭なの?」  ううん、と首を横にふる。 「そう。これからが大変ね」  親せきや知人に医師が数多いる由紀子さんの口から出た私立医学部の金銭事情は、うわさに聞く以上で、一般家庭が難なく賄えるとは思えなかった。 「それで、今まで麻美さんがしてきたことに、彼はお礼を言ったのかしら?」  この問いにも、わたしは黙って頭をふった。 「じゃあ、宝くじの話はしないほうがいいわ。麻美さんは大丈夫みたいだけど、彼はどうかな……。きっちりとした金銭感覚がないと、いきなり手に入った一億円は猛毒よ」 「彼の、どんなことに注意をすればいいのか教えて。お願い」 「そうね。彼がお金や地位を持ったときに、どう変化するかを見るといいわ。彼の場合はすでに医学部に合格しているから、麻美さんは彼の変化がすこしは見えていると思うの。自分のランクが上がったら、無慈悲にこれまでの関係を切り捨てる人とは、距離を取ったほうがいい。そういう人は、自分のポリシーがないから、お金に踊らされて身を持ち崩すのがオチよ」  厳しいコメントを、眉ひとつ動かさずに言う。 「あさって、合格のお祝いをうちでする予定なんだ」 「彼から、今までありがとうって言葉があるといいけど」
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