記憶を消して

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記憶を消して

 二日後、回復したアクトが登城すると、部屋でダイアナが待ち構えていた。 「姫殿下、この度は大変ご迷惑をおかけして」  ダイアナは、何も言わず、侍女に目配せした。侍女は、一礼して部屋を出て行った。  部屋に、ダイアナとアクト、二人になった。  アクトは、ダイアナの纏っている空気の重さに気が付く。 「どうか、されましたか?」 「先生、いえ、アクト。お願いがあるの」  アクトは、ダイアナの深刻な表情に顔を強張らせた。 「……なんでしょう」 「魔術で、記憶を消せる?」  アクトは、目を見開いて、答えなかった。  ダイアナは、残念そうに微笑む。 「消せるのね」 「教えたでしょう。むやみに使うものではないと」 「私、結婚が決まったの」  アクトは、息を呑んだ。 「私のなかの、貴方の記憶を消して欲しいの」  アクトは、答えなかった。 「じゃないと、私、結婚なんて無理……」  ダイアナは、俯いた。  想いが溢れて来て、次々と頬を濡らした。  アクトは胸を締め付けられた。 「無理です」  アクトが、ぽつりと言った。  ダイアナは、悲し気に顔を歪めてアクトを見た。  アクトは、無理やり微笑む。 「大丈夫。こんなろくでもない男の事など、すぐ忘れますよ。言ったでしょ、魔術はホイホイ使うもんじゃないって」  面白おかしく言いながら、声は震えていた。 「アクト……」 「御結婚おめでとうございます。どうかお幸せに」  アクトは、一息に言い切るとダイアナの顔を見ない様にして足早に出て行った。     その後、アクトは王宮から姿を消した。
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