宮廷”雑用係”

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宮廷”雑用係”

「貴方が好きなの。結婚して下さい」  ダイアナが、真剣な目で言った。    ダイアナ、16歳。歳上の宮廷魔術師アクトは、余裕(おとな)の微笑みを浮かべた。 「アナ、我が麗しき姫殿下、私は雇われの身(ゆえ)、お応え致しかねます」  王宮での振る舞いが身に付いている魔術師は、品良く答えた。  ここはダイアナの部屋。子供の頃の約束通り、アクトはダイアナに魔術を教えている。今は理論について座学中だった。  ルダリア王国の平和は続いている。宮廷魔術師は今ではすっかり宮廷”雑用係”などと揶揄されている。だがダイアナは、雑用を嫌な顔一つせず請け負いこなすアクトも、魔術の師としてのアクトも尊敬していた。その尊敬が好意に変わるのも時間はかからなかった。  ダイアナは、アクトの遠回しな物言いに顔を歪める。分かるような気はするが、はっきり言って欲しい。 「それってどういう意味?」 「無理、ダメ、不可能、否、出来ません。どれでもお好きなものを」 「()()()分かった。けど」 「あ、それと、()()()()()()」  ダイアナが、諦めないから、と言う前にアクトが機先を制した。  ダイアナは、むっとする。 「なんでよ」 「何でって、歳が10歳以上も離れていますし」 「大丈夫よ、先生はまだ二十代よ」  今度は、アクトがむっとした。 「師を揶揄(からか)わないで下さい。先程も言った通り、私は雇われで、たかだか宮廷魔術師の身ですので」 「そんなの気にすることないわ」 「ですが陛下は気にしていらっしゃいます」  ダイアナは、黙り込んだ。  アクトも黙り込んだ。 「ゴホンッ」  と、部屋の隅から存在を強調する咳払いが聞こえた。二人が見ると壁際で年配の侍従がしかめ面をしていた。 「姫様、魔術を学ぶのは決して遊びではないと父王様にお示しになりたいのでは?」  ダイアナは、厳めしい顔をする。 「私は、いつだって真剣よ」  ダイアナは、そう言って目線をアクトに戻した。アクトは黙っている。 「真剣なの」 「アクト様」  侍従が、アクトに大人の対応を促す。アクトは、奥歯を噛み締め、困った様に微笑んだ。 「無理です」 「どうして?」 「私は、何処の馬の骨とも分からない、しがない宮廷魔術師です」 「そんなことない!」 「行く当てのない私を拾って下った陛下に対し、大恩はあれど、あだなす気持ちなど欠片もございません。役職名のある仕事を頂いているだけでも身に余る光栄でして、従って」 「もういい。分かった。授業を続けて下さい」 「……分かりました」  ダイアナは、気持ちを切り替えるように溜息をついた。
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