宮廷魔術師

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宮廷魔術師

「危ないですよ、ダイアナ様」  優しい褐色の瞳をした青年が、木の上の女の子に声を掛けた。  青年は背が高く、慌てて自分を呼びに来た隣にいる侍女と頭一つ背丈が違った。その侍女は青い顔をして木の上の女の子を見上げている。  そこはルダリア王国の国王の王宮である。その庭の片隅に立つ、高さが二階の窓くらいまである大木の上にいるのは国王の三番目の娘、ダイアナだった。  侍女とは対照的に青年は何処かのんびりとした様子でダイアナを見ている。  青年は、ダイアナに聞こえる様に声を張り上げる。 「ダイアナ様、そこからの景色はいかがですか?」  ダイアナは、眼下に見える青年に声量を上げて応える。 「良い景色よ。あなたも上がって来る?」 「そうしたいのはやまやまですが、侍女の方が大変心配されておられますから、そろそろ下りて来られませんか?」 「そうなんだけど、下り方が分からないの」  青年は、きょとんとして微笑んだ。 「随分変わった方ですね」 「も、申し訳ありませんっ」  侍女が思わず謝った。  青年は、声を張る。 「とりあえず私が迎えに行きますから、姫殿下はそこでじっとしていて下さい」 「わかった」  青年は、幹のわずかな窪みに足をかけ登り始める。侍女が、はらはらしながら見守る。  青年は、順調に登り、大木の半ばまで来た。だがダイアナは、待っているのが退屈になった。上がって来る青年の姿を見ようと下を覗き込む。その時、彼女の足が滑った。 「あ!!」  侍女が短く悲鳴を上げる。青年が上を見ると、もうダイアナは目の前だ。青年は自分が落ちる事も構わず両腕を広げダイアナを受け止めた。侍女は思わず手で顔を覆う。  青年は地面に叩きつけられる――寸前で宙に浮いた。それに気が付いたダイアナがもぞもぞと青年の腕から顔を出し、彼を見た。彼は微笑んでいた。  すとん、と青年の背中が地面に付いた。 「お怪我はありませんか」  ダイアナは、青年の上で呆然と呟く。 「ないわ……」 「姫様~!」  侍女が、泣きながら駆け寄って来た。膝をついてダイアナを抱き締めた。 「寿命が縮まりましたよ! もう!」 「ごめんなさい……」  侍女の心配を肌で感じてダイアナは今更ながらに怖くなった。強張った顔で侍女の肩越しに青年を見た。  青年は、優しく微笑んで、ダイアナの背中をさすった。 「ご無事で何よりです」  ダイアナの目に涙が込み上げて来た。 「ごめんね、もう、登らないから」  ダイアナは、侍女にしがみついて泣いた。
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