婚約者と仕事を失いましたが、隣国ですべてバージョンアップするようです

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「大神官さま……ありがとうございます! 聖女の制約もなくなったのでこれで思いっきり……」 「うむ。何かあればいつでも、わしを呼ぶがよいぞ。そなたは、我が娘ゆえな」 「はい!」  こうしてアリサは、婚約破棄から三日と経たぬうちに、空飛ぶ馬車で王都からヒューズ領へと移っていった。 「うーん、心地いいわ!」  領主の館に到着したアリサは、シンプルなワンピースに着替えて領地へと飛び出した。王都からさらに南に位置するため、陽射しは強く空気は乾いている。  聖女として王都を守護する必要がなくなった今、アリサは『魔力の塊』と化していた。  長らく空き家だった領主の館を、一回手を叩くだけで綺麗にした。建物の時間を巻き戻して新築当時までさかのぼったのだ。  そして、一瞬にして持参したドレスを春用のそれから夏用のものへと変え、ついでに枯れそうだった大樹を元気にする。 「これで涼しくなるわ」  そして、屋敷の傍らに流れる細い川の水が淀んでいるのを見ると、それも浄化し、ついでに水路として整える。 「水遊びが出来るほどの幅はないわね、残念ね」  一気に魔力を使ったからだろう、小さな妖精たちが興味津々で近寄って来るし、竜たちは巨大な魔力の気配を察して警戒している。 「あらあら、あなたたちは光の妖精ね! ミラにリーン、ヘンリーっていうのね? よろしくね」  妖精たちが驚いたように飛び回った。 「そうよね、ここまで魔力のある人間は珍しいと思うわ。仲良くしてね」  桁外れの魔力に目を付けた先代聖女に引き取られ、聖女見習いとして働きだしたのは五歳だったか。  それ以来、胸元にいつもつけていた徽章、あれがアリサの魔力を聖属性へと変換し、ひとりで王都を守護していたのだ。そのため、アリサは物心ついてから十八になる今まで、自由に魔力を使ったことがない。  その任務から解放された今、アリサは自由に魔力を使える。それが楽しくて仕方がない。 「さて……誰も連れてこなかったから……お手伝いしてくれる子たちを呼びましょう」  ぱちん、と指を鳴らせばアリサの足元に魔法陣が浮かぶ。詠唱することなく――クラシックなメイド服を着た美少女が数人、姿を現した。いずれも白い髪と紫の目で、個性はあるものの全員、人形のように整った顔をしている。 「……わたくし、シルキー妖精を呼んだつもりだったんだけど……」 「はーい、あたしたちシルキーですよー」 「御主人さまの魔力が強すぎて、人間の姿になっちゃいました」 「あたしたち、お屋敷のメイドとして働きます」 「ごしゅじんさま、あとで、あたしたちに名前、付けてください」  わかったわ、とアリサがうなずくと、彼女たちは小躍りしながら館へと向かう。 「えっと、男性使用人も必要よね……さっき捕まえたコボルト、あの子たちを呼びましょう」  まずは二人くらいでいいだろう。家令一人と執事一人……。  魔法陣がぴかりと光り、仕立ての良いスーツに身を包んだ男性が二人。片方は、初老だろうか。ダークブラウンの短い髪はきちんと撫でつけられている。  もう一人は、若い――二十歳前後だろうか。ダークブラウンの髪を首の後ろで一つに括っている。 「えーと、年上のあなたが家令で、若いあなたが執事ね?」  さようでございます、と、二人の声が揃った。よく見れば、二人の顔が似ている。端正な顔立ち、上品な物腰。 「……兄弟? いえ、親子のコボルトかしら?」  はい、と執事が元気よく答える。 「ご主人様の魔力が強いので、我々は人型になった上に美形になったようです」
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