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 初めから変だと思った。  青い目の見た目で騙された。困っていたようだったので声をかけた。そして求められた道案内の終わりに、彼の日本語がペラペラであるという事実を知って愕然とした。 「有難うございました。とっても助かりました」 「………」  愛想の良い男、というのが第一印象。  後日、目の前の人が落とした本を拾って、本来渡るべきでなかった横断歩道を赤信号になりそうだったのを走ってまで渡って、持ち主に声をかけたら彼だった。   「あっ、君は」  期せずして望まない邂逅。忘れもしない、あの時の男だ。彼の顔を見てパニックになった。表紙が折れてしまったそのペーパーバックを彼の手に押し付けた。急いで退散しようとしたがそこを英語で捲し立てられ一瞬躊躇した。  目を覗き込まれ、それだけで参ってしまって、 「ノー!」  彼から逃げたのであった。  
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