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   彼は賑やかな店の方が好きで、品のいい食べ物より肉がドーンと皿に乗ったようなものが好きで、酒は度数が高いより量。  彼について段々分かってきた。  分かってきたからって何なんだ。  奇妙な関係が続いた。  夜の逢瀬、身分不相応な食事。  季節はとっくに変わっていた。バイトはリーダーになってしまい、大学卒業まで辞めるのをやめた。  人影の少ない運河沿いから歩いて、都会の夜の海を眺め見る絶景へ。 「君と見たいと思っていたんです」  美し過ぎる夜景に胸を鷲掴みにされる。  本当にやめて欲しい。信じられないぐらいどこまでも格好つけで、しかし相変わらず妙な日本語で続け様に言う。 「僕はもうすぐ国に帰りますが、君とはずっと一緒にいたいと思っています」 「帰るのに一緒にいたいって何。バカじゃないの」 「バカ。初めて言われました」  言葉とは裏腹に彼はとても笑っている。  遠くで船の汽笛が聞こえる。海風が街路樹を揺らしている。  寒い。コートの前を引き締める。後ろから彼に覆い被されて体が固まる。 「キスしたい」  いつもより低い声。振り返ればそこに彼の整った顔がある。引き込まれてしまう。  唇に触れる。舌に絡められて飲み込まれる。  不意の、感情の、投下。 「好きです。君が」    期待でなくてずっと予感があった。言葉にされて初めて形に成った。 「気のせいって言うんです、そういうの」 「気のせい?」 「俺はあなたにはそぐわないです」 「そぐわない?」  眼前の彼は不思議そうな顔をする。  まだ本当の言葉は届かない。  もっとはっきり言わないといけない。だが次の言葉が出てこない。 「好きです。これは分からない? じゃあ僕は他に何を言えばいいんですか」 「知りません」 「逃げないで」  強く抱きしめられて動けなくなる。  これ以上は本当にやめて欲しい。風が冷たくて息苦しくなるほど胸が痛い。 「あなたはいつかここからいなくなってしまう」 「でもまた会えます。必ず」 「ずるい」 「ずるい?」  彼の体は温かい。 「僕は君と……」 「やめろ。俺で遊ぶな」 「でも僕は本当に」  俺はこの後の彼の言葉を吸い取るように彼の唇に吸い付いた。  
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