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押しつけられた約束。その場所に現れた彼は普段通りの彼だ。皺一つ無いスリーピースのスーツに細めのネクタイ、高級腕時計、磨かれた靴。最早神々しくもある。外資系投資会社に籍を置くこの男は見た目も所作も完璧だ。
しがない学生の俺にこれの隣を歩けと言うのか。嘘だろ。新手の嫌がらせだろうか。
ドレスコードのある店(俺はジーンズでなかったのでギリギリ入れた)、薄暗い店内(逆に当てられる光が眩しくて目が痛い)。
――そして息を呑むほどに美しい夜景。
「いやいやいや」
危ない。少しでも気を許しては駄目なんだ。
「あんた誘う相手間違ってるでしょ」
流されそうになった理性を取り戻す。場違いな事を伝えて席を立とうとした。
「間違っていません」
キョトンとしてる。何そのしらばっくれ方。
「ないよ。あんたなら他に相手いるでしょうが」
「相手。いませんよ」
「いるだろ。恋人の一人や二人」
「仕事が忙しくて」
屈託ない笑顔。もう、何処から何処までが本当なのか分からない……。
「俺なんか食べても美味しくないよ。他当たってよ」
「食べる! どういう意味ですか? 食べるって何ですか? どうして怒ってますか?落ち着いてください」
暖簾に腕押し。
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