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 マサトは待合室の椅子に腰かけ、病院の白い壁をぼんやりと見つめた。  診察室での医師の言葉が、頭の中をぐるぐる回る。 「残された時間を、どう使うか考えたほうがいいでしょう」  疲れやすさは歳のせいだと思っていた。  だが、全身の痛みはごまかすことができない。癌は全身に転移していた。  ケイスケからメッセージが入っていた。 『結果わかったか?』  面倒見のいいやつだと、くすりと笑う。  ケイスケとは、思えばもう二十年の付き合いだ。  彼の詞にメロディをつけ、ギターを弾いてきた。ケイスケの声は、多くの人の胸に響いた。  そうやって二十年、小さなライブハウスを巡り、バンドを続けてきた。  幸せな人生だった、と、現実感の持てないふわふわした頭で、ふと思う。 『話さなきゃならないことがある』  とマサトはケイスケにメッセージを返した。  最期に、親しいファンを集めたライブをやりたいな、とマサトは思った。
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