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3
薄暗く狭いアパートに戻り、旅行カバンを出して、荷物を詰め始めた。
父親のことを考えると、また古い傷が疼く。
大学の軽音サークルでケイスケに出会ったマサトは、大学時代からライブハウスで演奏する幸運に恵まれた。
卒業の時、「音楽を続ける」と彼は両親に打ち明けた。
だが、父は猛反対した。
「おまえの音楽が、誰かの心に響くだと?
腑抜けた戯言も大概にしろ。
誰も相手にするもんか。おまえの音楽なんざ、クズみたいなもんだよ」
その父の言葉は、今もマサトの心臓に刺さったままだ。胸を押さえ、マサトは思う。
ーーあんな分からず屋の親父……。
一生許さない、と誓った二十代のマサトが、やっぱり帰るなんてやめよう、あの人と分かり合うなんて無理だ、と囁く。
その時、ふいにラジオから、エルトン・ジョンの名曲が流れた。
怒りを押し退けて、懐かしさが勝手に胸に広がっていく。
その曲を聴いたのは、たぶん父の経営する小さな町のレストランが最初だった。まだ物心もつかない頃だ。
エルトン・ジョン、マーヴィン・ゲイ、スティービー・ワンダー……その他にもたくさん。全部、父のレストランで、オムライスやナポリタンを頬張りながら教えてもらった。
ーー俺が音楽好きなのは、親父のせいじゃないか。
そう思いかけて、いや、と思う。
ーー親父のおかげで俺は、音楽に出会い、幸せだったんだ。
ーーあのオムライス、美味かったよな。
そして急に記憶が蘇った。
「ぼく、大きくなったら、お父さんみたいなオムライス作る人になる!」
自分は確かにそう言ったのだ。
父は嬉しそうに、そうか、と頭を撫でてくれた。
父は憧れの人だった。
ーー俺、親父を裏切ったんだ……。
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