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 特急電車を降りて家が近くなるにつれ、マサトは不安に押し潰されそうになる。  五年前、母が癌で亡くなる直前に電話をかけてきた。会いたいと。  母は、父に内緒でマサトを応援してくれていた。連絡先も伝えてあったのだ。  マサトは急いで家に帰った。  母に会うことを父は許してくれた。  それから半月で母は亡くなり、葬儀になった。納骨を終えると、父は言った。 「帰れ。もう用はないだろう」と。  マサトは怒りを抑え、父に礼を言った。 「母さんに会わせてくれてありがとう」  父は何も言わなかった。  駅中のカフェで無為に時間を潰していると、目の前を小さな男の子が走って行った。 「ケンちゃん、ダメよ」  と、祖母と思われる年配の女性が注意している。  ーーああ、俺は……。  ずっとバイトと練習とライブを繰り返して、結婚するような金も作れなかった。今も生活はカツカツだ。  就職するでもなく、父を手伝うわけでもなく、孫の顔も見せられなかった。  人並みの幸せを、親に見せられなかった。勝手ばかりしてきた。  ーー俺は、親不孝者だったんだ……。  好きなことに熱中してきた人生を後悔したことはなかった。だが今、人生の終わりを目の前にして、マサトの中に後悔と反省が生まれた。  ーー俺は家を出て、親父や母さんにどれだけ心配をかけたんだろう。母さんの世話をしてやることもできなかった。  母の葬儀に帰った時も、マサトの中に謝罪の気持ちは生まれなかった。  だが、謝るべきだったのだ。  自分は子どもじみた怒りに、いつまでも執着していた。それをやっと、マサトは悟った。  ーー帰るんだ……。帰って、親父に謝るんだ。  もう一度、帰ろう。  ようやく、マサトは真に決心した。  本当に、これが最後の機会になる。  すべきことは明白だった。
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