5

1/1
前へ
/6ページ
次へ

5

 マサトは、小さなレストランの扉を押し開けた。  父親がカウンターの向こうへ入っていく姿が見えた。店には客はいない。店内には変わらず、父の好きな七十年代の洋楽がかかっていた。  マサトは、緊張を抑えながら、カウンター席に座る。  父は水を出そうとして、驚いた顔で一瞬マサトを見つめた。 「何しに来た」  その声には、昔は感じられなかった老いが感じられた。 「親父、話がある」  とマサトは息を呑んで、言葉に力を込めた。 「聞くことはない」  と父は即答し、 水を置いてカウンターの外に出ると、追い出そうとマサトの腕を掴んだ。 「どうしても聞いてほしい。俺の時間はもう尽きてしまうんだ」  マサトはできる限り冷静に訴えた。  その言葉に、父は一瞬、手を止めた。 「何だと?」  父の手が震え、 その眼がマサトの表情をしっかりと見つめる。  マサトもまた、父を見つめ返した。 「父さんに、どうしても伝えたいことがあるんだ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加