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Part 3【待たせていた人】
「はぁっ、はぁっ……着いた……」
夜十時過ぎ、駅前の広場までダッシュでやって来たアタシ。慌てすぎて髪乱れまくってるし、結局また仕事用のスーツ姿のまま来ちゃったけど、まぁいつものことだから彼も許してくれるわよね。
っていうか、そもそもお昼にあんな事件さえなければ、取り調べやら何やら余計な時間を取られることもなかったはずなのに……それもこれも全部、あのひったくり犯のせいで……!!
あ〜もう、こうなったら思いっきり彼氏に愚痴って甘えてスッキリしてやる!
「あれ? まだ来てないのかな……?」
「あっ、刑事さん」
「えっ? ……って、アナタはお昼の……」
ふいに声をかけられたから、彼かと思ったのに。振り向くとそこにいたのは、待つのが好きな例の青年だった。
目が合うなり律儀にベンチから立ち上がり、爽やかな笑顔でこちらに近づいてきた青年。手には何となく見覚えのある、取っ手付きの白い箱……
「えっと……待屋君、だっけ? こんな時間にここで何してるの? もしかして、また誰かを待ってるとか?」
「はい。ここでずっと、アナタが来るのを待ってました」
「アタシ?」
不覚にもドキッとしちゃった。絶対に違うって分かってるけど、このシチュエーションでイケメンにそんな台詞言われたら、誰だって無条件に反応するでしょうよ。
「実はついさっき、とある方からご依頼を受けまして。『もうすぐここに刑事をやってる彼女が来ると思うから、自分の代わりに待っていてほしい』と」
「それでアタシを……えっ、ちょっと待って。つまりそれって、彼は今日ここに来れないってこと?」
「いや、さっきまでいましたよ? ボクは電話でご依頼を受けてここに来たので。そこで『一時間待っても来なかったらもう大丈夫だから』と、前払いで千円と……あと手紙を預かりました」
「手紙……?」
何だかいちいち回りくどいな。アタシの彼氏はそんなことする人じゃなかったと思うけど?
と、アタシがいつまでも状況を掴めないでいるうちに、やがて待屋君から横向きの真っ白な封筒を手渡された。
封筒の端には『スズへ』の三文字。確かに見慣れた彼氏の字だ。
ただ、刑事の勘なんてなくても分かる。見るからに、あらかじめ用意してた感じ。それだけで何だか嫌な予感がするけど、他の誰でもないアタシが読まないと――
『スズへ、最後がこんな形になってごめん』
――は? 最後?
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