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周囲の空気が一斉に肺に集まり、喉からゴーッという音が鳴る。呼吸する度に胸が大きく上下し、肺が痛む。息苦しさ故の涙と水による化粧崩れが朱音の顔をぐちゃぐちゃにする。
「顔おもろ」真がその顔を近づかせ、耳元で囁いた。
太い咳が止まらず、思わず膝をつく。髪から垂れた水滴がクッションフロアに水溜まりを作る。その水溜まりに映った自分の顔がやけに性悪に見えた。
時計の針が進む音、テレビの笑い声、上階の住人の足音。床に座り込み、数分が経った。傍らに立つ真を仰ぎ、リビングの逆光で暗くしたその顔面を捉える。
「真、最近変わったよね⋯⋯どうしちゃったの?」声が震えているのを自覚しながら、恐る恐る尋ねる。「⋯⋯なんかあった?」
「君は昔から本当に変わってないよね、白石朱音さん」
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