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「卵の黄色が焦げと区別つかなくて⋯⋯」
「美術部なのに黄色が分からないの?」
「黄色が黒っぽく見えるようになってしまったんです」
眼球に衝撃を受けてから色覚異常をきたしてしまい、黄色が灰色に、青が緑に見えるようになった。その経緯を話すと、白石は「誰のせい?」と腕を組み、体を近づけてきた。一歩二歩と後退りをする。
白石が黄色の絵具を手に取り、筆洗バケツに絞り入れた。
「緑は分かりますかぁ?」白石はケースから絵具をもう一つ取り出し、目の前で揺らす。
分かります、と答えると、白石は手を叩きながら吹き出した。「はぁ? これ青なんですけどウケる」
白石は青の絵具をバケツに絞り入れ、筆で中の水を混ぜた。元々濁っていた水は、ゴミが浮かぶ穢れた海のような色に変化した。
「これ飲めよ」
白石がバケツを鳩尾に押し付けてきた。ブレザーに水がかかる。
「⋯⋯嫌です」
「じゃあ土下座して謝れよ」突如怒鳴り声を出し、勢いよく床を指差す。
反応しない姿を見て白石は舌打ちをし、完成間近の絵の上でバケツを覆した。
ぁぁあああ! 獅子の咆哮のごとき悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちる。バケツの水と涙が混ざった液体が床を彷徨う。遠ざかる白石の背中を、歪んだ視界で噛み付くように睨んだ。
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