烏は世界を何色に見る

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「カケル、あと一回!」白石はそう言って、カケルにもう一つのおにぎりを投げ渡す。  目を瞑ると同時に左目に激痛が走った。鈍い音がまた一つ、足元に落ちたことを知らせる。恐る恐る瞼を開くと、床には野球ボールや黒板消し、教科書の紙切れが転がり、制服にはチョークや絵具の汚れが広がっていた。  弁当箱の中身が床にぶち巻かれる。視界に唐揚げと卵焼きが侵入した。好物のおかず達が訴えかけるように一斉にこちらを睨む。  投げられて最も屈辱的な物が母の作った弁当だということを彼らなりに分かっていたのか、おにぎりを最後に的当ては終わった。  床に広がるおにぎりやおかずをぼんやりと眺める。母の気持ちを踏みにじる彼らへの憎き感情が溢れ出す。胸苦しさが全身を這い、涙が目ににじむ。 「きもぉい、ノロマが泣いてるんですけど」  野口(のぐち)という名字と下の名前の一部をとって「ノロマ」と呼ばれていた。足が遅く、色白で眼鏡をかけていたため、子供ながらに精一杯の蔑称だったのだろう。
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