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飛び起きたと同時に、それが夢だったことを悟る。朱音の記憶に中学生の頃の色鮮やかな思い出が蘇った。月曜日の西日が頬を橙色に染める。
朝には真に弁当と朝食を作り、昼には溜まっていた家事を済ませ、土日の仕事の疲れを残した朱音の体はそのままベッドに吸い込まれるように落ちていた。
眼鏡をかけて洗面台へ向かう。顔を洗いコンタクトをつけ、玄関ドアのポストを確認する。『砂原真 様』と書かれた電気料金明細書を手に取り、リビングのローテーブルへ置く。
スウェットのポケットに入れていたスマートフォンが振動した。画面を開き、通知を確認する。
『再配達依頼が多くて帰るの遅くなる』
重い溜息を一つ、逢魔時の部屋に落とす。部屋を見渡し、改めてその薄暗さに気づいた。
セピア色の机、その棚の上には、真が色紙に描いた烏のデッサンがずらりと立てかけてある。予定がない休日、彼は自分で撮った烏の写真を見ながらひたすらこの机に向かい、デッサンを描く。
真はよく「鉛筆で描く烏は嘘をつかない」と口にする。先日は「空も海も花火もイチョウ並木も僕に嘘をつくんだ」と続けた。どういう意味かと尋ねると、彼は「朱音には分からないだろうね」と呆れ混じりに答えた。
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