烏は世界を何色に見る

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 真との出会いは配達だった。朱音が住んでいたアパートの部屋に、配達員として荷物を届けてくれたのが彼だった。顔立ちが良く物腰が柔らかい彼は、朱音の目に好印象に映った。しばらく世間話をし、同い年と判明すると、真から連絡先の交換を依頼してくれた。そこから付き合うに至るまでは早かった。  真は穏やかで人当たりも良く、朱音の我儘を何でも許してくれる。どこか闇を抱えていそうな一面がますます朱音を魅了した。  そんな彼とも、今日で付き合って一年。記念日ということで、彼がディナーに夜景の見えるレストランを予約してくれた。が、先ほど届いたメッセージは「行けない」ということを暗示するものだと瞬時に悟った。仕事だから仕方がないと思うべきなのだが、彼が今まで約束をキャンセルすることなどなかったという事実が重くのしかかる。  ソファに寄りかかりながらスマートフォンの写真フォルダを遡る。白群の空と紺碧の海、赤青黄を放つ花火、無限に続く山吹色のイチョウ並木。真に連れて行ってもらった場所で撮った写真が、当時の感情や会話、色を想起させた。
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