アムンゼン 16

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 …もしや、図られた?…  そんな思いが、この矢田の脳裏に、浮かんでは、消えた…  事実、その思いが、裏付けられるものが、あった…  バニラが、私の目の前で、スマホを取り出して、電話をかけだしたのだ…  「…バニラ、どこに電話をかけているのさ…」  「…殿下のところに、決まっているでしょ…」  バニラが、言う…  それを聞いて、私は、  …やはり、図られた!…  と、確信した…  このバニラは、最初から、この矢田に、アムンゼンに詫びさせようとしたに違いなかった…  その証拠に、今、アムンゼンに電話をかけている…  普通ならば、そんなに簡単にアムンゼンに電話をできるわけがない…  この矢田にとって、アムンゼンは、身近だが、バニラにとっては、違う…  十分、距離を置いている…  それは、アムンゼンが、偉いこともあるが、それ以上に、バニラは、アムンゼンと距離を置きたいのだ…  なぜなら、アムンゼンは、マリアを好き…  だから、まさかとは、思うが、将来、マリアを嫁にもらいたいとでも、言われやしないか、母親のバニラは、ヒヤヒヤしているのだ…  ヒヤヒヤ=心配なのだ…  アムンゼンは、小人症だから、外見は、3歳にしか見えないが、ホントは、30歳…  マリアは3歳…  しかしながら、20年も経てば、結婚できる…  しかし、そのときは、マリアは、23歳だが、アムンゼンは50歳…  しかも、アムンゼンの外見は、今のままだろう…  3歳児のままだろう…  それを、考えれば、複雑になる…  まさかとは、思うが、アムンゼンが、マリアと結婚したいと言い出せば、簡単に断れないからだ…  なにしろ、アムンゼンは、現サウジアラビアの国王の弟であり、前サウジアラビア国王の息子…  まぎれもないサウジアラビアの実力者の一人だからだ…  だから、無下にできない…  簡単に断れないからだ…  私が、そんなことを、考えていると、  「…ハイ…わかりました…これから、伺います…」  と、バニラが、答えていた…  「…これから?…」  思わず、私は、バニラの言葉を繰り返した…  電話を切ったバニラは、その言葉を聞いて、  「…これからよ…お姉さん…」  と、私に向かって言った…  私は、それを見て、ますます、  …嵌められた…  と、気付いた…  このバニラに嵌められたと、気付いた…  が、  怒るわけには、いかんかった…  なぜなら、この矢田が、アムンゼンと対立しても、いいことは、なにもない…  いいことどころか、悪いことばかりだ…  だから、早急に仲良くなるに、限る…  元通りの仲に戻るに限る…  しかし、何度も言うように、自分から、アムンゼンに頭を下げるのは、嫌だ…  しかしながら、頭を下げるにしても、  …お義父さんが、困るから…  と、考えれば、この矢田の面目が立つ…  ホントは、頭を下げたくはないのだが、お義父さんのために、仕方なく、頭を下げたと、誰でもない、自分自身を納得させることが、できるからだ…  そのように、私は、考えた…  考えたのだ…  だから、  「…だったら、さっさと行くさ…」  と、言った…  「…善は急げさ…」  と、私は、続けた…  それが、いかんかった…  いかんかったのだ…  「…善は急げって…お姉さん?…」  バニラが、怪訝な表情で、私を見た…  私は、一瞬焦ったが、  「…謝るなら、早いに越したことはないと言いたいのさ…」    と、言った…  すると、だ…  「…どうして、早いに越したことはないの?…」  と、マリアが、聞いた…  私は、マリアを見て、  「…それは、早く行けば、相手も嬉しいからさ…」  と、教えてやった…  「…嬉しい? …どうして、嬉しいの?…」  と、マリア。  「…それは、マリアが、自分の身になってみれば、わかることさ…」  「…自分の身に?…」  「…そうさ…これから、誰かが、マリアに謝りに来ると、聞いて、ちっとも、来なければ、マリアも、イライラするだろう…」  「…ウン…」  「…だからさ…」  私は、私の大きな胸を張って言った…  「…だから、急がねば、ならんのさ…」    私は、断言した…  「…さあ、行くゾ…」  私は、宣言した…  すると、だ…  「…ちょっと、お姉さん…その恰好で、いいの?…」  と、バニラが、聞いた…  私は、いつもの普段着…  白いTシャツにヨレヨレのジーンズだからだ…  だから、バニラが、心配したのだ…  だが、それが、この矢田トモコの定番…  定番のスタイルだった…  だから、  「…バニラ…よく、聞けば、いいさ…」  と、言ってやった…  「…なにを聞けば、いいの? …お姉さん?…」  と、バニラ。  「…私は、いつも、この恰好さ…このスタイルさ…この恰好が楽だし、気に入っているのさ…それが、例えば、アムンゼンに詫びるからと、言って、派手なドレスでも、来て、行けば、アムンゼンも仰天するさ…かえって、心がこもってないと、思うさ…」  「…」  「…だから、いつものスタイルが、一番なのさ…変に着飾ったりすれば、相手が、どう受け取るか、わからんさ…」  私は、力を込めて、説明した…  バニラを納得させるために、説明した…  が、  実は、内心は、違う…  自分のスタイルを正当化するために、強弁したに過ぎない…  なぜなら、私は、目の前のバニラのように、長身でも、美人でも、なんでもない…  身長159㎝のどこにでもいる、35歳の女だからだ…  だから、どんなに着飾ろうとも、目の前のバニラの足元にも、及ばない…  そんな私が、着飾っても、仕方がない…  そういうことだ…  なにしろ、目の前のバニラは、女ながら、身長180㎝の長身…  おまけに、とんでもない美人だ…  彫りの深い白人の顔…  まるで、彫刻で、刻んだかのように、作り上げた顔…  しかも、しかも、だ…  あのリンダが、おとなしめのイメージが、あるのに対して、このバニラは、派手なイメージがある…  もっと、言えば、野性的なイメージがある…  しかも、どこか、セクシーなところがある… 正直、この矢田も、同じ女ながら、ドキリとすることがある… ハッキリ言って、この矢田と同じ人間だとは、思えない(苦笑)… それほど、キレイだし、美しい…  が、  それは、見た目だけ…  見た目だけだ…  中身は、なにもない…  ビックリするほど、なにもない(爆笑)…  しかしながら、美しい…  実に、美人だ…  私と、同じ人間なのに、どうして、この矢田とこんなにも、違うのか?  と、悩んだことがある…  しかしながら、話し出すと、バカ丸出し(爆笑)…  知性の知の字もない…  だから、まあ、所詮は、神は二物を与えずというやつだ…  所詮は、このバニラは、元ヤン…  アメリカの貧民窟の元ヤン=ヤンキー上がりだ…  だから、知性もなにもあるはずがない(笑)…  ただ、その圧倒的な美貌を武器に、運よくモデルとして、成功しただけだ…  私は、思った…  私は、考えた…  なぜ、運よくと言ったのか?  これは、皮肉でも、なんでもない…  ハッキリ言えば、街中を歩いたり、大きなスーパーにでも、行けば、ごく稀にではあるが、ビックリするような美人を見たことが、誰でも、あるものだ…  しかしながら、その美人は、一般人…  ハッキリ言えば、自分のその類まれなルックスを生かして、それを仕事にすることは、できない…  それを仕事にする=モデルや女優や歌手になることは、できない…  そういうことだ…  だから、私は、このバニラを見て、思った…  思ったのだ…  神様に愛されていると思ったのだ…  しかしながら、外見は、いいが、中身はダメ…  中身は、バカ丸出し…  それで、バランスを取っている…  それを考えれば、神様も、考えてくれている…  このバニラに、ルックスも知性も、両方は与えない…  そう、思ったのだ…  私が、そんな思いで、このバニラをジッと見ていると、  「…なに、お姉さん…そんな細い目で、私をジッと見て…」  と、バニラが、聞いてきた…  当たり前だった…  「…いや、オマエを見ていると、ホント、美人だなと、思ってな…」  私は、言った…  正直に、言った…  「…やだ…なに、お姉さん…いきなり…」  バニラが、顔を赤らめた…  「…ホントさ…ウソじゃないさ…」  私は、続けた…  「…オマエは、美人さ…ビックリするほどの美人さ…」  私が、言うと、  「…ありがとう…お姉さん…」  と、バニラが、顔を赤らめながら、私に礼を言った…  同時に、気付いた…  なんに気付いたか?  なぜ、あのアムンゼンはリンに夢中なのか?  考えたのだ…  なぜなら、アムンゼンの周りには、このバニラという美女が、いる…  リンダもいる…  ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースも身近にいるのだ…  しかしながら、アムンゼンは、リンに夢中…  これは、一体なぜか?  私は、考えた…  もしかしたら、身近すぎるからか?  考えた…  どんな美人やイケメンでも、親しくなりすぎると、ダメだ…  仲が良くなりすぎると、相手を異性として、見れなくなるからだ…  どんな美人やイケメンでも、今さらとなる(笑)…  そういうことかも、しれん…  私は、今、私の細い目で、眼前のバニラを見ながら、そんなことを、考えた…  考えたのだ…  この矢田トモコ、35歳…  まだまだ、甘い…  修行が足りん…  後に、そう思った…  そう、気付いた…                <続く>
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