ついてる男(650字の物語)

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ついてる男(650字の物語)

「いらっしゃいませ。今日はお二人ですか?」 と、いつものカロオケ店の店員に聞かれた。 …二人だと?揶揄っているのか?… と、腹が立ったが、ここは大人の対応で冷静に答えた。 「いや、いつもの様に一人で来たよ。」 すると、店員は不思議そうな表情で 「その人はお連れ様では無いのですか?」 と、聞いてくる。 「何を言ってるんだ。何処にもう一人いるんだ!」 と、声を荒げて言ってしまう。 「貴方の後ろにいますよ。ほら貴方のうしろに」 と、不気味な笑みを浮かべながら私を見る店員。 背中に感電したかの様な衝撃が走るが、 私は勇気を持って振り返り、 「誰も、居ないんでは無いか?いい加減な事を言うな!」 と、怒鳴ってしまう。 「また、ご冗談を、そこにいるじゃ無いですか?」 と、平然としている店員。 「何処に居るんだよ!」 「お客様、貴方の後ろにいますよ。解らないのですか?」 と別の女店員が声を上げる。 「そうですよ、そこにいるじゃ無いですか」 と、また違う店員が真剣な眼差しで言う。 …私には見えない何かが憑いているのか?… 恐怖の為か、私の体全体が寒気で覆われる。 「本当に、いるのか?」 と、私は泣きたい想いで言った。 「いますよ。私たちには見えます。」 と、三人が声を揃えて言う。 「今日は辞めとくよ。帰る、ごめんな!」 と、私は逃げる様に、店を出た。 …霊が憑いている、霊が憑いている… と、心の中で叫びながら、霊を自分の体から 振り落とす想いで全速力で走った。 「どうだい、新しいマニアルの成果は? 嫌な客を追い返す事、出来たかい?」 と、店長。 「はい、バッチリでした」
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