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139 さすがに元凶に話を付けに行こう②
「まずい…… というと?」
「ここの」
そう言ってファン医師は頭を指で突いた。
「血管が切れると、運が悪ければ死ぬんだ」
「!」
「良くても今の医療では、身体の何処かが不自由になる。手足、言葉、考えることができなくなる。目覚めないままということもあるな」
「アンジーは」
「そこまでではないだろうが、それでも血圧を下げる治療と、あとはその食い尽くしたいという衝動を何とかしなくちゃならないから、しばらく入院は必要だな」
「では自宅は」
「とんでもない!」
ファン医師は大きく両手を振り回す。
「あんたの実家ではこの女に逆らえる奴は居ないんだろう? じゃあ駄目だ。まあそれに、あんたの実家もきっと持て余していたんじゃないか? この妹を」
「それはあると思います」
ゲオルグも口を開いた。
「正直、旦那様も若旦那様も、見ていられなくて領地に逃げてしまった感があります」
「でも、お父様はお母様をどうしても見捨てられないって」
黙ってゲオルグは首を横に振った。
「最近ではアンジー様すら放って好きにしている奥様に、疲れ果てていた様子でした」
「クライドは?」
「若旦那様は……」
「若旦那様は駄目ですよ」
フィリアはむっつりとした顔で首を大きく振る。
「見ていられない、というのが大旦那様はまだ痛々しい、とかなんですが、若旦那様は、わざわざ自分で好きこのんで選んだアンジー様だというのに、むくむくと太りだしたアンジー様を見ているのが気持ち悪いという様で!」
「まあ、気持ち悪くなるのは分からんでもないな」
「ヒドゥンさんまで?」
「や、俺は他人だしな。キミから聞いていた姿がいきなりこうなったら、単純に生き物として怖いわ」
「まあそれは分かるんですよね、私としても」
フィリアはため息をついた。
「知らなくてもそう、若旦那様は特に! テンダー様を切ってアンジー様に決めた時も、外見や態度が一番でしたからね! そりゃあそういうお方ですから、見切りをつけたくもなるんでしょうね! でもあの方は婿ですからね。下手にその役目を放棄することもできない、したくないんでしょうね、捨ててしまったらただの庶民になるしかないし。だから何かしら言い訳して別居したんでしょうね」
吐き捨てるフィリアに対し、テンダーからすると複雑な思いだった。
妹に関してはある程度自業自得という感はある。
欲望を制御できない育ちをしてきたせいだろうと。
だが、そもそもそう育てたのは誰だ?
そう思うと元凶はやはりただ一人ではないか、とテンダーは思わずにはいられない。
「ゲオルグ、ともかくこちらの病院でしばらくお世話になるから、とお父様とクライドには伝えて頂戴な。看護人を調達することとかも相談しなくてはならないし」
「テンダー嬢、まだしばらくは通常の看護人は要らないね。しばらくは薬ででも眠ってもらっていた方がこの女は良いと思う」
成る程、とテンダーはとりあえず納得した。
起きて意識がちゃんとしていたら、また気持ちがぐらぐらとしてしまうのかもしれない。
*
「ファン先生は、劇団が地方に行った時に仲間に入ったんだ」
何故あの医師が「気持ち」の面について詳しいのか、というテンダーの問いに、ヒドゥンはまずそう答えた。
「きっかけはまあ、居た場所を逃げてきたとか色々あるんだけど」
「……色々」
「劇団は大所帯珍道中だしな。まあその中に一人二人突然混じっても大したこたない。医者は居てくれたら御の字。で居てくれてるんだけどな。劇団ってのは結構気持ちが上下する奴が多いんだ」
「そうなんですか?」
「まぁな」
「皆鋼の精神持ってるかと。だってほら、ちょっと前の採寸の時とか……」
「ああいうとこじゃないんだな。気にするとこは。で、一度気にし出すと」
ぱっ、と彼は両手を開いた。
「食べ尽くして吐き続ける女優とかも結構あってな」
ああ、とテンダーは小さく頷いた。
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