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〈前編〉わたしの決断
「大きくなったら結婚しようね」
そう約束したのは、たしか4歳か5歳の時だったと思う。
同じ幼稚園に通っていた男の子と、そんな約束をしたことを覚えている。
でも、その約束をした男の子が誰だったのかはすっかり忘れてしまった。
人は1日に3万5000回も決断をしているらしい。
あの時の私も、「大きくなったら結婚しようね」という言葉を口に出して彼に伝えるかどうか、さぞかし悩んだことだろう。
それなのに、今となっては約束の相手の男の子が誰だったのかも忘れてしまった。
たぶん彼も同じだろう。
彼も私のことなんてすっかり忘れているはずだ。
もしかしたら、そんな約束をしたことすら忘れているかもしれない。
当時のことを思い出したら、何故だか急に胸がソワソワしてきた。
まだ幼かったとはいえ、よくもまあ「結婚しよう」だなんて大それたことを口にできたものだ。
こんな時は甘いものを食べて心を落ち着かせるに限る。
夕飯の材料を買いに近所のスーパーへ行く途中だったが、今日は最近行きつけの喫茶店でパフェでも食べよう。
ダイエット中の私は喫茶店へ向かう途中、果たしてこの決断は正しいのかと何度も自問自答した。
だが、喫茶店に着いてパフェの一番上にのっているチョコレートアイスを口に入れた瞬間、私の決断は間違っていなかったと確信した。
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