「またいつか」のその日まで

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話の内容とは裏腹に、いつも通りの明るい声でその放送は締められた。 二、三分ほどCMを挟んで次の番組が始まる。 流行りの音楽が流れているが、俺の耳には何も入ってこなかった。 俺はただ、呆然と虚空を見つめているだけだった。 (深夜公園が終わる? 嘘だろ?) 『セーブデータの深夜公園』は、俺の大好きなラジオ番組だった。  初めて聞いたのは高校三年の春。受験勉強の傍らでつけっぱなしにしていたラジオから偶々流れてきたのがきっかけだった。 「セーブデータ」は西部翔(にしべかける)出田保(いでたたもつ)からなるお笑いコンビだ。二人とも絵に描いたような陰キャラ顔で、違いはメガネを掛けているかそうでないか、ぐらいだ。ゲームに因んだコンビ名だと思われがちだが、二人の苗字を組み合わせて読み方を弄っただけだと言い張っている。芸歴は十年近いが売れてるとは言い難く、テレビで彼らを見る機会は殆どない。知ってる人は知ってる……かも。ぐらいの立ち位置だろう。  でも、俺は彼らのラジオが大好きだった。  突拍子もないボケを繰り出す西部に、冷静かつ鋭いツッコミを入れる出田のやり取りを聞くのが好きだった。会話の全てが漫才やコントのようで、木曜深夜の二時間はいつもあっという間に過ぎ去った。睡眠時間が削られて、次の日に悪影響が出るのは分かりきっていたが、それでも聞くことをやめなかった。  やめられなかった。  いつからか、このラジオを聴くことが一週間で一番の楽しみになっていた。  それは、大学に入ってからも就職して社会人になってからも変わらなかった。  社会人一年目で苦しみの最中にいる今、このラジオは一週間で唯一の楽しい時間だった。  それなのに…… (終わる。本当に終わってしまうのか?)  目の前が真っ暗になるという感覚を初めて味わう。  信じたくない一心で、俺は携帯端末を手に取った。  SNSで「セーブデータの深夜公園」の情報を探す。  俺と同じようなファンのコメントがこれでもかと並んでいた。  深夜3時過ぎなのに凄い勢いでコメントが書き込まれている。  お笑いコンビ「セーブデータ」の世間一般の知名度は低いが、彼らのラジオ番組はカルト的な人気があった。  皆、番組の終了にショックを受けているようだった。  中には「どうせドッキリだよ」とか「ネタに決まってるだろw」とか言って、番組の終了を信じていない人もいた。  俺は……信じたくなかった。
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