「またいつか」のその日まで

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「最近気づいたんだけどさ」 「何?」 「俺、頭がイカれてるかもしれない」 「何を今更。つーか、今まで自分で気付いてなかったのか」 「は? じゃあ何か。お前、ずっと俺のこと頭がイカれてる奴だと思ってたの?」 「当たり前だろ。酔っ払って大声で歌いながら  パンイチで踊り狂う奴がまともなわけねえだろが」 「うるせえ! お前なんか、彼女からカンチョーされて喜んでる変態だろうが!」 「二日に一回は職質されるような奴に変態呼ばわりされたくないね」 「女が履いてきたブーツの匂いで興奮する奴なんか、純度100%の変態だろ」 「よーし、じゃあ第三者から意見をもらおう。  おい、リスナーども。西部と出田、どっちの方が頭がイカれてるのか、  理由を添えてメールで送ってこい」 「タレコミも歓迎するぜ」  ここらで一旦、CMが入る。  いつも通りだ。  冒頭のなんてことはない世間話から喧嘩コントのような展開になり、リスナーに向けてメールテーマが発表される。今日は、西部と出田の架空の変人エピソードをリスナーから募集するようだ。CMの間に、リスナーからネタメールがたくさん送られてくる。それらを拾い上げて、二人で笑いながらネタ話を繰り広げる。そうして番組はどんどん盛り上がり、最後は気持ち良く笑って締められる。  いつも通り。先週までと何も変わらない。  現実の嫌なことを忘れてしまえる、楽しい二時間だった。 (もしかしたら、あれは何かの間違いだったのかも)  そんな希望が俺の中に湧いた。  彼らは、番組が終わることについては一言も触れなかった。残りあと三回だとか、来月からどうしようとか……そんな話をするのが普通だろうに何も無かった。あまりにも普段通り過ぎて、番組終了の件は俺の勘違いだったんじゃないかって思いになった。
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