「またいつか」のその日まで

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 そんな希望に縋りつつ、次の木曜日の深夜が来る。  これまで通りの楽しい放送だった。  やはり、番組が終わることについては触れなかった。  頭の片隅で「残りあと二回」という意識があったが、見ないふりをした。  そして、また次の木曜日の深夜が来る。  今までと何ら変わることのない、楽しくてくだらなくて大切な時間。  今日も何事もなく過ぎ去るのだろうと思っていた。が…… 「さてと、楽しかったこの番組もいよいよ来週で最後か。  あと一回だと思うと、さすがに身が引き締まるなあ」 「正直なところ、どう?」 「どうって?」 「寂しいとか悲しいとか、ある?」 「そんなもん……あるに決まってんだろ!」 「だよなあ。正直、まだ俺ら自身が番組が終わるって実感が無いもんな」 「はあ……終わりたくねえよぉ……」 「来週どうする? 最後くらい思い出を振り返ってしんみりしちゃう?」 「いやいや、そういうの柄じゃないでしょ。俺らもリスナーも」 「それもそうか。じゃあ、いつも通りのノリで行くか」 「当たり前だろ。最後の放送、めいっぱい楽しむぞ」 「では、また来週〜」  いつも通り、西部による締めの掛け声で今日の放送は終わった。  それと同時に現実を突きつけられた。 『セーブデータの深夜公園』は本当に終わってしまうのだ。 (あと一回。あと一回で、終わってしまう)  どうしようもない寂しさが俺の胸の中で渦を巻く。  だが、思っていたより精神は落ち着いていた。  最初に番組終了のお知らせを聞いた時の方がよっぽど衝撃を受けたような気がする。あれから何週間か経っているし、心のどこかで覚悟は決めていたのだろう。 (最後の放送……俺はちゃんと楽しめるだろうか。笑って聞けるだろうか)  そんな思いを抱えながら次の木曜日が来た。 『セーブデータの深夜公園』、最後の放送となる日が。  いつも放送日が待ち遠しかったのに、今回ばかりは憂鬱な気持ちで迎えることになった。
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