遠い花火に

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なされるがままに、突っかけるように靴を履き、外に出る。 「えっ、なに?」 「いいから!」 門を出た希美は、朋彦を引っ張りながら、小走りになる。 (よくわかんないけど、青春……) 手を繋いで駆ける2人の画を想像して、楽しくなる。 すぐに坂道になった。 「ここって……」 「そう。秘密の山」 2人にしか通じない呼び方。 まだ小学生の頃、密かに登った、山というより、小高い丘。 背の高い雑草の中の細い道を登り切ったてっぺんには、1本の大きな木がある。 幼い2人にとっては、秘密基地みたいな場所だった。 気づいたら『秘密の山』と呼ぶようになっていた。 「あぁ、なんとか間に合った……」 希美が息を切らせながら、北の方角を振り返る。 並んで立つ朋彦も、 「おぉ……」 「きれい……」 2人の嘆息。 遠くの町の夜空を彩る花火に、2人はしばし見とれていた。 一連の打ち上げが途切れたところで、希美がポロッと 「夢だった」 「……?」 「家族で、ここから花火見るの」 希美の瞳に夜空が映る。 小学生時代に両親が離婚した希美は、以後母子家庭で育った。 「その夢……」 希美の横顔を見つめ、朋彦が言う。今こそサプライズの時だ……そう思いながら。 「一緒に叶えたい」 「えっ?」 大きな目を朋彦に向ける。 一瞬、時が止まる。そして、朋彦がゆっくりと言った。 「結婚しよう」 希美は「はっ」と息を呑んで、一瞬視線を泳がせたが、すぐにまた朋彦を見つめ、 「うん」 ほのかな笑みで、返事をした。 『ドーン、ドーン、パチパチ……』 2人の視線が、再び始まった花火に向く。 2人の瞳の中で、遠い花火が弾ける。 今、花火はクライマックスを迎えていた。 (完)
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