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春の差はうまらない
ゴールデンウィークが過ぎて数日がたったある日。
5月の始めとは思えない暑い日差しが教室を照らす。
エアコンをつけるにはまだ早いと教室中の窓が開け放たれ、止められていないカーテンがゆらゆら揺れている。
昼を知らせるチャイムが鳴り、皆が各々昼食を取ろうとしたところで前のドアが勢いよく開け放たれた。
あまりの速さと音に皆の視線がそちらにいく。
ドアいっぱいの大きな体をした堀尾千晴はギロリと教室内を睨みつけた。
短く切り揃えられた硬そうな黒髪を後ろに撫でつけ、青のネクタイをだらしなくぶら下げ、ゆるっと着られたブレザーが千晴の人柄を更に悪くさせる。
「うわ……アイツって1年の」
「なんで2年の教室に?」
「あれだろ。獲物探してやがんだよ」
「ひっ、目を合わせないように下向いとこう」
ひそひそ声で男女問わず話していると一人の女子が立ち上がった。
その女、菅沼星依は弁当の入った袋を片手に優雅に席を離れた。
腰の長さまである艶髪を揺らし、音もなく、そしてしなやかに皆が恐れている男の元へ何の迷いもない足取りで。
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