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03_ばいばい寿都くん_Lies, lies, lies
待って待って、と更別さんがわたしの手をつかんだ。
「転校するって本当? どうして」
「……親の転勤。ウチは仲良し家族だから単身赴任って概念がないんだよ」
そうなんだ、と更別さんは手を離す。うつむいて、それから意を決したように更別さんは顔をあげた。
「私が口出しすることじゃないってわかってる。けどいわせて。私は天文部の副部長をしているの」
「へ? そうなんだ、っていうか、ウチの学校に天文部なんてあったんだね」
もっと早くわかっていたら入部したのにな。心底残念だ。
「でね。私は部長と付き合っているの」
「あー、そうなんだ……って、え? じゃあ?」
「寿都くんとはなんでもないから。いいよられてもいないから」
「そんなわけ──」
「本当にそうだから。寿都くんも星が好きなのよ。だから」
そこまでいって更別さんは口を閉じる。これ以上は自分が言葉にすべきじゃないと思ったみたい。
だったら? 二股じゃなかったってこと?
……そんなこと、いまさらいわれたって。
鼻先が熱くなる。唇が震える。必死でなんでもない顔をしてわたしは更別さんへ笑顔を向けた。
「わかった。ありがと。もういいかな?」
わたしは更別さんへ背中を向ける。
もういい。もう遅い。手遅れだよ、寿都くん。
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