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05_やっと会えた_Lies, lies
寿都くんのポスターの所属機関名。
そこは九州の大学だった。
「えええ~~~? なんで~~~?」
「『なんで』じゃねえ。標津さんが九州へいっちゃったからだろう。お前こそなんで北海道の大学なんだよ。おれはなんのために九州の大学を受験したんだよっ」
隣に寿都くんが立っていた。
ひょええ、とわたしは大きくのけぞる。
やっと会えた感動ではなく、ただただ飛びのくほどの驚きがあった。
「待って。どうして寿都くんが天文学? あ、このポスターのイントロの部分、馬頭星雲ってある。寿都くんも馬頭星雲が好きだったの?」
寿都くんが黙る。顔をしかめてクシャクシャっと髪をかく。
「寿都くん?」
「標津さんが『馬頭星雲が好きだ』っていうからでしょ?」
「わたし?」
え? え? と寿都くんのポスターを見直す。
研究動機として、『友人Sが馬頭星雲について熱く語ったのがきっかけ』とある。友人S……。わたしのこと?
え? いつ? 高二のあの教室? 春先の? それでずっと? ……それからずっと?
「おれだってもともと星が好きだったんだ。で、クラスで見かけた女子が馬頭星雲の画像ついた本を読んでいたから嬉しくなって話しかけたんだけど」
「宇宙が好きだったんなら、そういってよ。トウキビの話しか覚えてないよ」
「おれだっていいたかったよ。けど、いざ口にしようとすると、周りのやつらの視線が気になって。ほら……宇宙話題ってちょっとマニアックっていうかなんていうか」
ああ、と腑に落ちる。だから天文部の更別さんに話しかけていたんだ。
ん? 更別さんに話すくらいなら、わたしに話したっていいんじゃ?
「更別さんと標津さんとは違うでしょ」
「どう違うのよって、なんでわたしの考えが?」
「声になっていたから」
またわたしってば、と手で口をふさぐ。
「それに更別さんは彼氏いたし、相談しても変に勘繰らないだろうって思って」
「相談?」
「……標津さんが塩対応なんですけど、どうしたらいかな、とか」
「……」
「そしたら標津さん、急に転校していっちゃうし。担任に連絡先を聞いても個人情報だって教えてくれないし。しょうがないから、とにかく九州にいったんなら、九州の大学だろうってんで受験して入学してみても、標津さん、いないしさっ」
寿都くんは涙目だ。
……勢いにもほどがある。
「教室で宇宙の本を読んでいた標津さんの目。本気だった。こいつならきっと本当に研究者になっちゃうんだろうなって思った。だからおれも目指したんだ。おれが宇宙をあきらめなかったら、きっとどこかで標津さんに会えるって信じてた」
やっと会えた──寿都くんの顔に笑みが広がる。
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