8人が本棚に入れています
本棚に追加
06_不器用なわたしたちは_Lies, lies, lies, lies
ああもう、と肩の力が抜ける。
寿都くんってこんな人だったのか。ぜんぜんわたしって寿都くんのこと、知らなかったんだなあ。
あのころは寿都くんがなにを考えていたのかわからなかったけれど、いまならわかる。
くすっと笑う。……わたしに彼氏ができていたらどうするつもりだったんだろう。
「略奪するに決まってんだろうが」
断言されて、わたしは口に手を当てた。また言葉になっていた?
「失礼」と声がして我に返る。ポスターの見学に来た人が説明を求めていた。あわててわたしは研究モードに入る。
隣では寿都くんも見学に来た人へ説明を始めていた。
堂々とした寿都くんの声。きっかけはわたしだなんていっていたけれど、それだけで研究は続けられない。どんなに寿都くんが宇宙を好きか、ときおり聞こえる言葉の端々にそれが伝わってきた。
うん。いいな。
うん。いい。
あと一回、寿都くんを信じてみたい。
ううん。わたしもう──信じている。
見学者がまばらになってわたしは寿都くんへ向き直った。
「寿都くん、一緒にプラネタリウムへいかない?」
「へ?」
「焼きトウキビも食べたいな。この街でも焼きトウキビあるかな。それから──」
言葉を切る。寿都くんが泣きそうな顔をしていた。
「駄目?」
寿都くんは首を振る。
「標津さんのそういうとこ、やっぱいいよね。順番とか話の流れとか、どうでもいいとこ」
「やっぱいい」
「いやいやいや、褒めてんの。すごいなって。愛しちゃうくらい」
「え?」
「あ、いや、……うん。だから大変だよ? おれと一緒にプラネタリウムなんていったら、ずっと星のこと語っちゃうから。ウザいよ?」
……根に持っている。
──何年? 出会ったのは高二だから五年近く? そんなに長く寿都くんは待っていてくれた?
「おれはソンブレロ星雲推しでね。あの暗黒帯がなんともいえない味わいで楕円銀河もすごいけど、あの銀河ハローの球状星団を思うともう気が──」
語り出す寿都くんの手をわたしはそっとつかんだ。
そしてほほ笑む。
「お待たせ」
(了)
最初のコメントを投稿しよう!