アカウント作成 〜白銀の輝き〜

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アカウント作成 〜白銀の輝き〜

 快晴の翌朝、開催日時の『白銀に輝く時』の意味がわからず、悶々(もんもん)としながら目が覚めた。夢の中で白銀の空間を彷徨い続けた心地だった。 (昨夜は全然眠れなかったな……)  よく考えてみれば肝心の端末はどうやって手に入れるのか、開催場所は何処なのかさえ会見発表でわからなかった。こんなにもいい加減な会見は初めてだ。月見団子を1つも食べれずに朝を迎えた憂鬱な気分だ。  ひとまず、朝飯を食べる前にアッポロイドアカウントを作る事にした。最新の端末がなくても作成出来る事は幸いした。今使っているスマホを取り出し、入力作業に入る。だが、普通に作れると思いきや、トリッキーな仕組みが組み込まれていた。アカウント作成にシャクレ顔縛りの顔認証の作成や、Tonoに詳しくないと絶対に回答出来ない4択クイズ集があった。結果、全部ネットで調べて回答して事なきを得た。後で調べてわかった事だが、既にアッポロイドアカウントを持ってる人もこの縛りと回答からは逃れる事ができないらしい。参加者全員のシャクレ顔を集めてどうするのやら。 (絶対、売る気ないだろこれ)  内心そう思ったが、購買客が例年絶えないのがなんとも不思議だと改めて感じる。このアイン・フォンはそこまでいいものなのか。  クイズも苦戦した。まず、アカウント作成にクイズを仕込むというのは、考えた人間の思考を疑ってしまう。どう考えてもユーザーを増やしたい者が考える事じゃない。参加者を(ふるい)に掛けているとしか思えない。 『Tonoのシャクレ顎の角度は何度?』というクイズがあったけど、あんなの普通の人は絶対わからんだろ。ネットがない時代に発売されていたらどうなっていた事やら。 (登録終わったし、飯にしよう)  最後の項目の入力も終わり、『しばらくお待ち下さい』の画面が出た。一息をつき、朝飯である団子を口に運ぶ。会見での憂鬱は一口噛じる毎に少しずつ薄れていく。漬けているタレが段々と無くなっていくように。 (あとは、開催日時と場所か……)  こちらはさっぱりわからん。いつ行われるかわからない大会にどう備えろというのだ。白銀に輝く時っていつなんだ。さっぱりわからん。おまけに場所が何処かもわからないからどうしようもない。 (そうだ! こんな時にこそTonoだ! Tonoに聞けばいいんじゃないか!)  咄嗟に閃き、聞いてみた。 「Hey! Tono! 最新アイン・フォンの争奪戦会場はいつどこで開催されるんだ?」 しばらくして、スマホから返答が返ってくる。 「なんだ? バカヤロウ! 今忙しいだよ!」 (ムキー! この返しはやっぱりムカつくぅー!)  わかっていても第一声の『なんだ? バカヤロウ!』に慣れる事はない。聞く度に言いようのない怒りが込み上げてくる。しかも、シャクレて喋ってくるから余計にたちが悪い。聞き取りづらくて仕方がない。苛立ちにも拍車がかかる。いい加減にこの仕様は廃止してほしい。そして何故かKogoloo社のスマホにもこのTonoは採用されている。当然、俺のスマホにも。  数分して、怒りが徐々に収まってきた。すると、収まりに合わせてスマホの画面が『しばらくお待ち下さい』から『白銀に輝くまで○○○。私達も待ちきれません。だから今忙しいだよ!』の表示に変わった。 (!? 白銀に輝くまで○○○!? もしやこれは……)  予想外の表示の変化に驚き、画面に釘付けになる。最後に余計な一言があるが、もう無視だ。そして、開催日時がいよいよ判明する事に段々と喜びが増す。紅葉が深まるように気分も高揚していく。少し待てば詳しい事が分かるかもしれない。そう思うと居ても立ってもいられなかった。そして、数刻後、メッセージの背景が淡い白銀色を放ち始めた。 (画面が銀色になり始めた。 いよいよか……)  淡く輝く白銀はまるで錦秋(ぎんしゅう)のよう。画面上の秋の移り変わりが開催日時までの秒読みを匂わせる。その後、ゆっくりと色調の変化を成し、紅葉の紅と淡い白銀が交互に移り変わり、これが繰り返される。これこそ現実と仮想の融合、画面だけで現実の秋を味わえるようになるとは、現代の技術は大したものだ。待たせている間も飽きさせない工夫も抜かりがない。流石はアッポロイド。  季節の移り変わりを楽しんでいると、新たな文字が表示された。 「今はその時ではない。 『全てが白銀に染まる時』こそ争奪の時」 (何っ!? 『今はその時ではない』ってどういう事だよ!?)  秋の快晴のように、開催日時への道筋が透き通っていた最中、突如ゲリラ豪雨を匂わせる曇天の暑い雲に遮られた。開催日時判明はまだ先になりそうだ。天気が崩れるようにガッカリし、気分も崩れていった。
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