開催日時判明 〜白銀の染色〜

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開催日時判明 〜白銀の染色〜

 翌週、秋の連休の初日の昼。未だに開催の情報がわからず憂鬱な気分だ。曇天だが心の中も曇っている。長月の秋晴れなど忘れ去ってしまうほどに。今思えば、空も快晴から曇天に変わった事で、碧天(へきてん)の青から曇天の白銀に変わりつつあるように見える。手掛かりが無い今、これこそ目的に近づいていると思いたい。昼飯の秋刀魚の塩焼きを細かく刻み、(つま)みながらスマホを見つめている。 (『全てが白銀に染まる時』……。 確かにこれで大部分は白銀だが、全てと言うには程遠い)  あれから1週間、開催情報を求めて生活での白銀の割合を増やした。部屋の壁全面に白銀色のクロスを貼り、家財道具は全て白銀の塗料で塗り尽くした。飯もここ毎日秋刀魚の塩焼きだ。流石に飽きる。これで目に移るもののほぼ全てが白銀となった。室内の人工錦秋もどきもここまで来ると逆に新鮮だ。 (これで、やれる事は全てやった。だが、未だに何の変化もない……)  再び行く先を失い、彷徨っていたその時、太陽が雲の切れ目から現れ、分厚く覆われた雲の中から一筋の光が差した。その光が辺りを照らし景色の全てを白銀の染めた。すると、スマホの画面に変化が訪れた。カレンダーが表示され、秋の連休最終日の欄が白銀色に点滅、合わせて新たなメッセージが出てきた。 「今こそ、『全てが白銀に染まる時』! 開催日時はシルバーウィーク最終日! アプリ『ツイックス』でイベント争奪戦クイズを開催!」  ついにきた。天候とシルバーウィークは盲点だった。家財道具は触る必要はなかったらしい。田植えをしたが殆ど不作に終わった気分だ。それにしても、天候の僅かな変化も読み取るとは現代の技術は末恐ろしい。 (お次は、ツイックスだな)  こっちは元々使っているから、特に準備は必要なさそうだ。アッポロイド社のアカウントをフォローをする事だけだ。当日、どんな事をするのか楽しみだ。不作の憂鬱も将来の豊作への期待に塗り替えられていく。 (ぶっ!? これは……他の参加者か?)  ツイックスで他の参加候補者の情報も見る事ができるようだ。当日まで情報収集をしよう。まず、驚いたのが全員、アイコンが自撮りのシャクレ顔だった事。ここまでふざけた顔が並んでいる事など滅多にない。見た瞬間に吹き出してしまった。口に含んでいた秋刀魚を返してほしい。  それにしても、どれも聞いた事のない個性的な名前ばかりだ。本名ではないから当然と言えば当然だが。聞いたとしてもシャクレ顔陳列のインパクトが強すぎて印象に残らない。 (なんで、こんなのがアイコンになってるんだ?)  疑問に思ったが、これ以上秋刀魚を犠牲にしたくないので、見るのをやめてしまった。あとは当日の楽しみにしておこう。今日は思考停止でスマホを見るのをやめた。『白銀の余韻は最後に取っておくのがいいかもしれない』そう自分自身に言い聞かせ、自室を後にした。  1週間後、参加者がツイックス上で一堂に会し、白銀の成熟が訪れる。
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