追々試験

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「お願いします、あと一回、何卒」 「いや、あのさ」 「何卒」 「あの」 「何卒何卒」 「いや、それを何回増やしても、無理だって」  これまで深く下げていた頭を勢いよく上げて「なんでですかぁ」と泣きそうな顔になっているのは、新川千紗(しんかわちさ)。まるで西洋人形みたいな金髪と、すらりとのびる長い手足が印象的な子だ。事実、きょう彼女がこの部屋にやってきたときは、その背の高さに内心驚いてしまったくらいだった。  彼女は本学経済学部経営学科に所属する女子学生。対して僕はその学科で教鞭をとる、しがない准教授という関係性である。よく晴れた日の午後、彼女が僕の研究室へ半ば転がり込むようにして押し入ってきてから、既に一時間程度は経っただろうか。前期定期試験が終わり、夏休みが訪れたキャンパスは人の姿もまばらだ。そんな中わざわざ研究棟にやってきた彼女が、話題をあっちこっちに飛び移らせながらも、最終的に狙っている着地点は「追々(ついつい)試験の実施」だということは僕にもよく理解できている。
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