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本日刺繍の授業のために借りたという部屋は、
時々訪れるミシェル様とニコライ様が、よく使用している談話室だそうだ。
部屋の前にたどり着くと、二人はそっと繋いだ手をはなした。
離れた手の寂しさを紛らわすように、ニコライは勢いよくノックをする。
中から元気よくミシェルが顔を出す。
「お待ちしておりましたわ、マリーベルさま。
お兄様、待ちくたびれましたわ。今度はお兄様が席を外してくださる?」
「ちょっとミシェル……!っておい!
マリーベルさま、そ、それでは後ほど」
ミシェルは開口一番にそう告げると、ニコライの背中を押して部屋から半ば強引に追い出した。
「マリーベルさま、どうぞ、そちらにおかけくださいませ。」
私は呆気にとられたものの、気を持ち直してソファーへとふわりと腰をおろした。
「私ね、紅茶を淹れるのも得意ですのよ。熱いのでお気をつけて、さぁ、どうぞ、マリーベル様」
ミシェルは、慣れた手つきで、紅茶を注ぐ。
久々に紅茶を飲む気がするわ。
とてもいい香り。
紅茶を淹れ終えると、ミシェルはソファーへと腰をおろす。
紅茶を飲む仕草も綺麗。
思わず目が惹きつけられて、見惚れてしまうわ。
ミシェルは、薄紫のドレスを身に纏っている。その首元には、レースと華奢なアクセサリーがあしらわれている。ハーフアップにした髪型と、淡い色合いの装いがあいまって、本人の美しさを一層引き立てている。
本当に、妖精のようだわ。
「こうして、お話するのは初めてですわね。
お噂は、かねがね伺っておりますわ」
「……ミシェルさま。
噂といいますのは、
あく、悪女という……噂のことでしょうか?」
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