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「こちらはシンプルなモチーフのお花です。マリーベル様もこちらを見ながら、挑戦されてみてくださいませ」
「ええ。がんばってみますわ。
あら?」
さっそく針に糸を通そうとするものの、上手くいかなかった。
「難しいですわ。 手が、震えて……」
針の穴に糸を通すことは、思いの外至難の業だった。
先程ミシェル様は、簡単に通していたように見えたけれど。
実際に自分でやってみると、上手くいかない。
見兼ねたミシェルがマリーベルに付き添い、
針の穴に糸を通すまで手伝う。
何とか糸を通せたので、いよいよ刺繍をはじめようと針を刺す。針をそのまま引っ張ると、スルスルと糸が抜けてしまった。
「あら? ミシェル様、あの、糸が抜けてしまいますわ。」
「ふふ、大丈夫ですわ。糸の端に結び目を作りましたか?
このようにこうして、と、もう大丈夫ですわ」
「まぁ、結び目のことを忘れていましたわ。お恥ずかしいです……」
「そんなことありませんわ。誰しも初めての瞬間がありますわ。何事も経験ですもの。
今、こうして、マリーベル様は新しい事を始めたばかりですわ。 何かを始めて、それが出来るようなった時のことを考えると、楽しみでわくわくしませんか?
私は、マリーベル様が初めて刺繍を始めた瞬間にこうして立ち会えて、とっても嬉しいですわ。
あら、 初めてのことをマリーベル様と一緒に行う……ふふふ、アーサー様に言ったらどんな顔をするかしら? 羨ましがるでしょうね、揶揄うネタできましたわ。
と、いけない、マリーベル様、お気になさらないで」
「ミシェル様、ありがとうございます」と、感謝の気持ちを伝えて、刺繍を始めたマリーベルは、ミシェルの最後の呟きは耳に入っていない。
ミシェル様は、ニコライ様と似ていらっしゃるわ。お優しい所がとても。
ぎこちない手つきではあるものの、なんとかお花のモチーフは完成した。
「マリーベル様ら完成されましたのね。初めてで、ここまで完成できる集中力は素晴らしいですわ。
あとは、繰り返しの練習あるのみです。」
「ミシェルさま、ありがとうございます‼︎
とても難しいですね……部屋でがんばって練習致しますわ。」
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