Cと30

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「なに?悪い、も一辺言ってくれ。俺の聞き間違いか?血を流してたのはBの方だってのか」  グラッパをBと呼んだズィオに、マルソーは一瞬誰の事を言っているのかと呆けた表情を見せたが、すぐに理解をしたのか、何度も何度も頷いた。 「そうです、見間違いじゃありません。倒れていたのはグラッパの方です。結構な量の血が床に広がってたんで、思わず駆け寄ったんですけど…」  マルソーはそこで一度言葉を切ると、口ごもるように唇を噛んだ。 「どうした、言ってみろよ」  ズィオに促され、マルソーは恐る恐る口を開いた。 「グラッパの側まで行ってみたら、あいつ、太ももを撃たれてたんです。しかも気絶してて、何が起こったんだって思ったときには、俺もここを殴られてました」  マルソーは自分の後頭部を軽く叩きながら言った。 「俺が憶えてんのはここまでです」  項垂れるように肩を落としたマルソーに冷たい視線を送りながら、ズィオは彼の話を思い返していた。 (チャイムも鳴らさず入ってきたんなら、まだ帰宅していなかったその家の息子だろうと考えるのが自然だが…。だがなぁ、Bは俺に言わせりゃ半人前だが、ガキに後れを取るわけねぇ。だとすると、少しばかり突飛な考えではあるが…)  ズィオは何か思いついたようにマルソーに声をかけた。 「なぁ、その夫婦、俺らと仲のよろしくねぇ別のマフィアなりなんなりとつるんでたって事はねぇか?」  潔癖そうな正義の味方ヅラをして、裏では良くない繋がりを持っている。飛躍した考えだが、あり得無い話ではない。 「俺もちょっと、それを考えてみたりしました。この辺にはまだまだ、表にも裏にもカプランに逆らう連中は居ますから。そこの連中か、もしくはそいつらに雇われた殺し屋なりが、夫婦の事を守っていたとか。でもですよ」  マルソーは何かを訴えかけるような目をズィオに向けた。 「もしそうだとするなら、なんで俺らを殺さなかったんです?しかも救急車まで呼んで。病院に運ばれてるってことは、呼ばれたんですよね?救急車」  訳がわかんねぇんすよ。ため息と共にマルソーはそう言った。 「確かにな……」  マルソーの言葉に、ズィオも納得せざるを得なかった。しかし、だとしたらマルソー達を病院送りにしたのは誰なのか。 「或いは……、カプランの評判を貶めたい奴らの仕業か、もしくはシマを荒らすなと言う警告か」  ズィオは独り言のように呟いて、すぐにその考えを打ち消した。見せしめにしたいなら、やはり二人を始末するだろう。 (わかんねぇな)  ズィオはなおも頭を捻って、幾つかの可能性を考えだが、どれも帯に短し襷に長しで、納得のいくものではなかった。
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