Cと30

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 シエラの警察とカプランが昵懇の仲であることは、市民の間でもよく知られた事だった。  カプランにまつわる犯罪に巻き込まれた市民は、運が悪かったと泣き寝入りせざるを得ない。ここではそんな理不尽がまかり通っていた。  そんなこの街で、公然とカプランに楯突く真似を続けた夫婦に、ズィオはどこか尊敬にも似た興味を寄せていた。  その夫婦がこの世に残した二人の子供達のことが、ズィオは気になっていた。悪党にあるまじきお人好しな振舞いであることは承知しつつ、出来れば何か力になってやれないかとも、彼は考えていた。 「今日、サムソン地区でうちの連中がやらかしたろ?詫びくらい入れさせてくれよ」  ズィオはそんな殊勝な言葉を伝えつつ、電話の向こうにいる課長の胡散臭そうな顔を想像した。 「こっちでも色々始末をつけなきゃならねぇ事があってな。そっちの情報、まわしてくれねぇか?」 「情報っつってもなぁ、お宅の欲しがってる情報が何なのかわかんねぇし」  低く唸るような声で課長は言った。その言葉の影に、なにかこちらの出方を探るような気配をズィオは感じた。  ずぶずぶの関係にあるとは言え、警察とマフィアだ。お互いに心を許しあった間柄ではない。  特にこの件は死人が出ている。カプランの関係者が犯人だからと言って事件を不問に付す事を、腐っても警察に身をおく人間が面白く思うはずはないだろう。 「起こったことの概要と経過だけ教えてくれりゃ良い。後はこっちで良いようにするから。警察の顔を潰さねぇ程度にな」  課長の機嫌を取るように、ズィオは言った。 「まぁ、そうだなぁ」  まだ躊躇いを覚えるような気配を残しながら、課長は事の次第を少しずつ話し始めた。 「今日の昼頃、正午を少し過ぎたくらいだったか。銃声がしたって通報が、現場に一番近い派出所にあったんだよ。で、そこの警官が現場に駆けつけてみると、男が二人倒れていた。見るからにあんたらの世界の住人て風体の男どもだ。駆けつけたのは若い巡査だったから、どうにも対応の仕方がわからずに応援を呼ぼうとしたらしいんだが…」  課長はそこで言葉を切ると、ズィオをヤキモキさせるような間を置いた。 「応援呼ぼうとして、どうしたんだよ」  ズィオは我慢出来ずに催促の声を上げた。課長に遊ばれているようで癪に触ったが、当の課長はズィオをからかう意図などまるで無いと言わんばかりに、神妙な声で話を続けた。
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