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「柱の影から、ガキが姿を見せたんだよ。それで、その若い巡査に言ったんだ。「すぐに救急車を呼んでください」てな」
まるで秘密を打ち明ける子供のように、課長は声を圧し殺してそう話した。
「まぁ、あの家にはガキが二人いたって聞いてるから、そのうちの一人が出てきたんだろ。何をそんな、ビビったような話し方するんだよ」
課長のただならぬ様子に、ズィオは軽口を叩くような明るい口調でそう尋ねつつ、課長の答えを待った。
「ビビってるわけじゃないが、そのガキ、中学生くらいの少年だったんだがな、手にピストルを握ってたんだよ」
あんたの組織の人間がよく使ってる型だ。課長はそう付け足した。
「何だと?」
課長の口から漏れた言葉に、ズィオは顔をしかめながらそう言った。課長はズィオの困惑を感じ取ったのか、溜め息混じりに話を続けた。
「そのガキが持ってたピストル、どうも家に侵入したあんたの部下から奪ったもんらしいんだよ、その若い巡査が言うには」
課長の声も、どこか困惑の色を帯びているような気が、ズィオにはした。自分の話している内容を自分でも信じきれていない、そんな様子だった。
「その巡査がガキから聞いたところによれば、学校から帰ったところであんたの組織の奴と鉢合わせたらしい。で、逃げようとしたところを捕まえられて、揉み合ってるうちにたまたま、殺し屋の握ってた銃が暴発して、運悪く殺し屋の太腿の辺りを撃ち抜いたそうだ。相手はその拍子に後ろ向きに転んで、後頭部を壁にぶつけて延びちまったんだと」
課長の言葉をズィオは順番に映像にして頭の中に映していった。話の流れとしては筋が通ってはいるものの、曲がりなりにもカプランの殺し屋のやられ方にしては、間が抜けている。
(Bのことを評価するつもりはないが、いくらなんでもガキ相手に遅れをとるか?簡単に組伏せられるだろうに)
それにマルソーは、Bは玄関の開く音を聞いてから階下に降りたと言っていた。
「なぁ課長」
ズィオは胸ポケットのタバコの箱に手をのばしながら、課長に尋ねた。
「倒れてた奴はもう一人いたろ?うちの奴らは二人組でそこに出向いたはずなんだ」
「ああ、居たよ」
課長はまたも、何かに引っ掛かりを持っているような調子でそう答えた。ズィオと同じ違和感を課長も感じているのかも知れない。
「もう一人の方は、ガキが上からの物音に気付いて柱の陰に隠れた所に、2階から慌てて降りてきたそうだ。で、仲間が倒れてるのを見て狼狽してるところを、後ろから拳銃の銃創部分で後頭部を殴ったって言ってたよ。ドラマでやってたのを真似したんだと」
課長の話しぶりからは、どこかその話を疑って掛かっているような気配が伝わってきた。ズィオも同感だった。
(ドラマで見ていようがなんだろうが、見よう見まねでできるもんじゃねえよ)
声に出さず、心の底の方でズィオはそう言った。きっと課長も同感だろう。
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