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「俺が知ってるのはここまでだ。一応、事件は刑事課の方に回されて、被疑者と思われる二人は逮捕されるんだろうけど、あんたらの絡みなら粛々とうやむやにされて終わるんじゃないか。ま、組織犯罪対策案件てことで、最終的にはうちに回されるかもしれんが、そんときにまた色々聞いてくれ」
課長は、悔恨と諦念の間で迷子になったような声でそう言った。
警察官としての意地はまだ死んではいないようだが、無力感にも苛まれている哀れな組織人に向かって、ズィオはもうひとつ、疑問に思っていたことを尋ねた。
「なぁ、確認なんだが、うちの二人のために救急車を呼んでくれたのは、そのガキなんだよな?」
「あぁ、そうだよ。その場にはガキしかいなかったからな」
そりゃそうだろ、とでも言いたげな調子で課長は話した。
「ガキはどうなったんだ?今どうしてる」
ズィオは一番気になっていたことを尋ねてみた。マルソーの話では、その中学生の少年の他に、幼い女の子もいたはずだ。子ども達は今、どこにいるのか。
「それなぁ…」
課長は語尾をいたずらに引き延ばしながら、少し間をおいて話し始めた。
「そのガキがな、救急車を、まぁ正確に言えば、巡査に救急車を呼ぶように指示したあと、児相にも連絡を取ったらしいんだよ、自分で」
「児相だって?」
意外な場所の名前が上がり、ズィオはまたしても間抜けな驚きの声をあげてしまった。
「そうだよ。何でも、親の伝手で児相の連中に知り合いが多いんだとか言ってたらしい。で、その親の知り合いとかいうの児相の職員が救急車よりも早く家に来て、2階で震えてたそいつの小さな妹を保護して、さっさと連れてっちまったそうだ」
あまり興味の無さそうな口振りで課長はそう話した。
「妹の方だけ連れてったのか?」
課長の言葉に引っ掛かりを覚えたズィオは、言葉の尻尾を掴むようにすかさずそう問うた。
「え、あぁそうだ、巡査はそう言ってた。ガキが二階に妹を迎えに行って、両親の名前を呼んでた妹を強引に職員に預けて、連れてってもらったらしい。警察の応援が来て両親の亡骸を運んで行くまで、ずっとその場にいたんだとさ」
大したガキだよと、課長が感心しているのか、呆れているのかわからない口調で言った。
ズィオは、Bたちの残した凄惨な現場で両親の骸と向き合う、顔も知らぬ少年の姿を想像した。
「ガキに随分ご執心じゃねえか」
課長の冷やかすような言葉が電話の向こうから聞こえた。
「笑えねぇな」
冷めた声でズィオはそう答えた。
「・・・悪かったよ」
戸惑いを孕んだ課長の声には応じず、ズィオはじゃあなと言って通話を切った。
「・・・児相ねぇ」
それじゃあ子供たちは、数日中にどこかの養護施設に引き取られるのか。携帯電話をコートのポケットにしまったズィオは、年季のいった愛車に背中をあずけ、天を仰いだ。
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