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(児相にも養護施設にも、伝手はねぇな)
今にも泪を降らせそうな鈍色の空を見上げ、ズィオはため息をついた。
(特に児相ってのが良くない。怖れるに足るような奴らじゃねぇが、俺らを蛇蝎のごとく嫌ってるって意味じゃ、厄介だ)
シエラの街の児童相談所は、そこの代表から末端の職員に至るまで皆、カプランを親の敵か何かのように憎んでいた。
身寄りの無い子ども達を保護し、しかるべき施設を紹介し、一人前の大人になることを願う彼らにしてみれば、施設を出た若者達がカプランに誘われ道を踏み外す姿は、最も見たくない光景に他ならないのだ。
(まぁ、連中の職業上の使命感がどれ程のもんかは知らねぇが、警察みてぇに話が分かる奴らは一人もいないんだろうな)
カプランのバッジをちらつかせる作戦は逆効果だと、ズィオは思った。厄介なことだ。
B達を襲ったのは、被害者夫婦と何らかの接点を持っていた別の組織の人間と言うことにして、ズィオは居もしない人間を追いかける振りでもしていようかと考えた。そうすれば、子ども達から目を逸らす事くらいは出来るだろう。
(だがなぁ、警察の方は事実を掴んでるようだし、遅かれ早かれ別のルートから話は漏れるよなぁ)
ズィオは上手い考えが思いつかないまま、愛車に乗り込んだ。
(一旦戻って様子を見るか。二人がガキにやられたって事が組織に知られてんなら、恐らくは放っておかねぇだろうしな)
その時は腹を括るしかない。本意ではなくとも、子ども達をどうにかするしかない。特に、Bやマルソーを制したというその少年は。
「うちの面子のためにな…」
意図せず、そんな言葉が漏れていた。ズィオにしてみればあまりに下らない殺しの理由を、とりあえず外に吐き出したかったのかもしれない。
果たして、ズィオがカプランのシエラにある拠点に戻ったときには、エージェントを病院送りにした少年の噂が既にカプランのなかで巡っていた。
早晩、上の方にも知られるのは間違いない。自分にも望まない命令が下ることだろうと、ズィオは覚悟した。
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