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「あなたも私も、組織が無くなってから上手く堅気に戻れたけど、他の子達はどうだったのかしら。特にあなたのところの」
ロンディーネはワインのお代わりをズィオのグラスに注いでやりながら、まるで教師が生徒の将来を心配するような顔でそんなことを言った。
「あいつが普通の生活に戻れるわけねぇじゃねえか。これからも裏街道を歩いて行くだろうよ。ま、あいつの事は心配いらんさ」
どこか呑気な様子でワインを飲み続けるズィオを、ロンディーネは呆れた様子で見ていた。
ズィオもロンディーネも、かつてはこの街を牛耳るある犯罪組織に所属し、情報収集や暗殺といった裏稼業にその身を捧げていた。
組織の名はカプランと言った。ビタロス全土の表にも裏にも支配の手を伸ばしていたカプランだったが、数年前のとある事件をきっかけに、文字通り一夜にして崩壊した。
カプランが無くなった後、表の世界の企業は次々に他社や外資に買収され、そこで働く社員たちは引き続きそれらの企業で雇用された。
一方で、犯罪も含めた裏仕事を任されていた者たちは皆、散り散りになっていった。
警察に逮捕される者や裏の世界で生き続ける者がいる一方、何食わぬ顔で表の世界で生きていく者もいた。
「お前さんのところだって、居たろ?たった一人の弟子が」
ズィオはグラスを揺らしながらロンディーネに問い掛けた。
「あの子は上手くやったみたいよ。コンサルタントだかなんだかで。風の噂だけどね」
世渡りはうまい子だったからと、ロンディーネはいつの間にか取り出した自分のグラスにワインを注ぎ入れた。
「おいおい、他の客もいるだろ?」
「もうピークは過ぎたから、問題ないわ」
そう言いつつワインを注ぎ終えたロンディーネを、ズィオは呆れた目で見ながら、グラスを向け乾杯の仕草をした。
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